医療の「見える化」をアプリで促進する|MacFan

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医療の「見える化」をアプリで促進する

文●堀永弘義

情報をCGや映像でわかりやすく伝えるのはiPadの得意分野であり、それは医療においても役立っている。今回は、アプリによる「見える化」が医療にもたらした恩恵について語っていく。

「見える化」がもたらした恩恵とは?




筆者は、これまで自ら医療アプリを開発するかたわら、数々の医療アプリを試して書籍やWEBサイト、ツイッターなどを通じて有益な医療アプリを紹介してきた。iPadが日本で発売されてから、5月でちょうど3年になるが、医療アプリに関しても、ひととおりすべてのジャンルが出揃い、洗練されたアプリが出てくるようになったと実感する。
iPhone、 iPadアプリが医療界にもたらした変化はいくつかある。パソコンのディスプレイという、ほぼ固定された状態からの「目線の変化」、どこでも好きな場所で、情報を取り出すことができるようになった「情報へのアクセス手段の変化」、説明や学習など今まで見えなかったものの「見える化」などだ。今回は、この中でアプリによる「見える化」が医療にもたらした恩恵について語っていく。
アプリによる「見える化」は、主に「患者への説明」や「医学生や医師の学習」、「臨床現場」といった場面で効果を発揮しているが、それぞれの場面で、どのアプリがどのように役立っているか、例を挙げながら紹介していこう。
 

リアルなCGが患者の具体的な理解を生む




まず、「患者への説明」という面について説明していこう。今までの患者への説明の主流は、紙と鉛筆。もしあったとしても、製薬会社の用意したパンフレットなどであった。医師の仕事の大半が患者とのコミュニケーションといってもいい過ぎではない中、絵や字の上手い下手が患者の理解を大きく左右してしまう。人によってかなりの差が生じることになる。
それが、今やiPadを活用することである程度解消できるようになった。入れておいた図、絵、グラフ、ビデオ、そしてアプリから、患者の年齢などに合わせたコンテンツを選んで表示させることができるようになったためだ。大まかな病気の流れは、動画やテンプレートを使用して説明、その後、個々に違う患者の状況を手書きで書き入れたりして説明することにより、全体像を説明したあとに、患者の置かれている状況を説明することができる。
インフォームド・コンセントという言葉だけが騒がれていたが、時間的な制約に変化がない医療業界で、効率よく説明できるという点は非常に大事だ。例えば、CGを使用して3Dで立体的に見せるアプリ「IC動画HD」は、患者の理解度の向上を導いた。テレビでお金をかけたCGを見慣れている患者は、適当な動画では納得しない。作り込んだCGが無料で使えるという点は非常に重宝される。
また、iPad発売時から3DCGを駆使した解剖学アプリを販売している米国の3Dフォーメディカル(3D4medical)という企業は、解剖学アプリ「デンタルペイシェントエデュケーション(Dental Patient Education Lite)」をリリースした。最近になり医療アプリの提供を開始したオルカヘルス(Orca Health)という企業も子ども向け歯科説明アプリ「キッズデンタル(KidsDental)」などを公開している。患者への説明にiPadとCGを使うことの有効性は、2、3年先を行くといわれる米国の医療現場が証明している。
 








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IC動画HD

[価格]無料[販売業者]MEDICA Cloud inc.


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実際に現場で診察をしている医師が、ほかの医師からのリクエストをもとに作っているアプリ。そのため、有用な動画ばかりが揃っているのが特徴だ。現在20以上の動画が登録されており、これからも増えていく予定だという。欲しい動画があれば、問い合わせホームから送ってみよう。簡単な登録のみで、無料で使用できるのもいい。












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Dental Patient Education

[価格]8500円[販売業者]3D4Medical.com, LLC


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アメリカで作られた患者向けアプリ。制作している3Dフォーメディカル社は、教育用も合わせて20本あまりの解剖学アプリを出しているが、その中でも患者向けとして出しているのは、整形外科とこの歯科アプリのみ。CG動画が豊富に使われており、説明用としては秀逸。ただし、すべて英語なので購入前は注意してほしい。





 

インタラクティブな学習が将来に役立つ



続いて、医学生や医師の学習における「見える化」の恩恵について語っていこう。医学生、医師が学習する解剖学の主流は、かなり古い時代に作られた解剖学の教科書。何年も変化がなく、高額である。当然ながら平面で、自分が見たい場所はほかの臓器に隠れていたりする。
今までも3Dを使ったデジタル教材はあったが、iPadアプリでの進化は、それを指先で回転、拡大させられることだろう。俯瞰した状態からどんどん拡大していき、自分が見ているものが、どの部分にどういう形、方向で存在するかが手に取るようにわかる。さすがに感触までは感じられないものの、自分の意志で触って動かすという行為は、将来的に患者の体と対峙するうえで役に立つ。中でも、「チームラボボディ・3Dヒューマンアナトミー(teamLabBody-3D Motion Human Anatomy)」という解剖学アプリは、献体という死後の体ではなく、生きている体を再現したという点で高い学習効果が望める。生きている人間の関節の形態や動きをCTやMRIで撮影、解析して3Dで忠実に再現している。
しかも、こうしたデジタル教材は、開発会社が大学や医療機関の監修・協力を得て作成したものが多く、信頼性の高いものが揃っている。例えば先述の3Dフォーメディカル社は、スタンフォード大学メディカルスクールとコラボレートしてアプリを作っており、オルカヘルス社は、ハーバード大学メディカル・スクールと協力してアプリを作成している。
また、アプリによっては、動きまで観察することができる。「リビングラング(Living Lung - Lung Viewer)」では、文字や絵では説明しづらい呼吸量と、肺、肋骨の動き、呼吸回数による変化などがシュミレーションできる。さらに、今まで聴診の音は実際に病気の人を前にして聞くぐらいしか方法はなかったが、「ハートマーマー・プロ(Heart Murmur Pro)」などのアプリを使用すれば、波形を見ながら、さらに実際に音を聞いて学習することができる。
このように以前の紙の教科書よりも進歩しているのにかかわらず、値段も安くなっているのもメリットだといえよう。
 








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teamLabBody-3d Motion Human Anatomy-

[価格]2600円[販売業者]TEAMLABBODY.inc


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たくさんの解剖学アプリが存在するが、純日本製は珍しい。英語が得意でない人でも安心して使える。85円で頭と首のみ見られる「TeamLabBody-3d Motion Human Anatomy Life(Gead and Human Anatomy)」があるので、購入をためらっている方は、こちらから試してみるといい。












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LivingLung - Lung Viewer

[価格]無料[販売業者]iSO-FORM, LLC


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肺に特化した解剖学アプリ。肺胞レベルまで細かく見ることができる。呼吸量、呼吸回数に合わせて、肺の機能的動きを見ることができる点は、ほかのアプリにはない魅力。ほかに有料(170円)で、肝臓の病気別に表示ができるアプリ「AR Liver Viewer」もある。






 

情報の見える化が患者を救う




もちろん、実際の臨床現場でも、iPadがもたらした「見える化」が大いに役立っている。手術室でiPadを使用して、患者の間近でCT、MRIデータにアクセスすることも、やはり「見える化」だといえる。それを可能にしたのは、iPad版「オザイリクス(OsiriX)HD」というアプリだ。患者のスキャンデータを元に作られた患者本人の3Dモデルを見ながら、実際の手術を行ったという事例もある。
また、医療現場でのiPad活用という点では、救急車にiPadを持ち込み搬送先の病院を検索、問い合わせをしている佐賀県の事例が見逃せない。今までの搬送先への連絡は、紙の一覧表を端から1つずつ電話をかけて問い合わせをしていたのだが、iPadを使用したシステムを導入することにより、1つの画面上で、受け入れの可否が一覧でわかるようになっている。全体像を把握したうえでの連絡は、スムーズな搬送先決定のキーとなる。これまで挙げた例とは異なるアプローチではあるが、これも救急車に持ち込めるサイズのiPadだからこそできた、救急医療においての「情報の見える化」だといえる。
このように、今や多くのアプリが「患者への説明」、「医学生や医師の学習」、「臨床現場」といった場面で医療の見える化を促進している。
しかも、今回紹介したアプリはほとんどが、iPhone、iPadが登場してから作られたものだ。それまでほかの分野のソフトを開発していた会社が、医療分野に参入してきたというケースが珍しくない。iPadアプリを通じてこれまでとは異なる分野の風が入ってきたことにより、医療のデジタル化は着実によい方向へ向かっている。
 








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医療App

[価格]無料[販売業者]ObjectGraph LLC


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医療関係者にとって「使えない」アプリがメディカルカテゴリに混在している中、使えるアプリを探すのは難しい。各カテゴリ内でランキングになっているので、周りの医療関係者が何をダウンロードして使用しているかがわかる。有料のアプリもあるが躊躇せずにダウンロードしてみてもらいたい。きっと、お気に入りのアプリが見つかるだろう。






文:堀永弘義
tlapalli, Inc CEO。医療アプリを中心に開発を行う。自身の作った「添付文書」アプリは、アップストアの医療カテゴリ上位の常連。また、ツイッターアカウント「@toyaku」上で、毎日医療アプリを紹介している。

『Mac Fan』2013年6月号掲載