AIと愛の話し方教室|MacFan

ChatGPTに代表される対話型AIの登場は、インターネット誕生以来のインパクトとさえ言われており、使用を禁止する大学や組織が登場するなど、世間を騒がせています。iPadを処方する眼科医であり、テクノロジーによる障害者支援をしてきた産業医として、今回は、本サービスが導く未来の生き方を考えていこうと思います。

私は2011年以来、視覚障害者や発達障害者に対して、iPhoneやiPadを活用したケアを行ってきました。活動開始当時は、主にiPadの「拡大鏡」機能を使って、軽度の視力低下がある患者たちに紹介してきました。翌年には、高度の視力低下がある患者たちからのニーズもあり、音声支援機能「ボイスオーバー(VoiceOver)」を紹介し、多くの方がiPhoneなどを活用して情報の入手・発信が可能となりました。

その後、音声対話型アシスタントシステム「Siri」の登場により、テクノロジーに苦手意識のあった高齢者を含む多くの方がiPhoneなどを日常生活の必需品として活用するようになりました。Siriを扱うときの現時点での課題は、コマンドを正確に認識できるように、こちらが話し方を工夫しなければならない点でしょうか。地方で行う患者さん向けの勉強会では、「Siriとの上手な話し方教室」がとても人気のテーマとなっています。

冒頭に挙げた対話型AIは、曖昧な表現で質問したとしても、的確に意図を汲み取って正確に回答します。長く続いた、「キーワードで検索する時代」の終焉を感じるほどです。いずれ対話型AIがSiriのようなシステムに組み込まれることで、人類は有能なアシスタントを携帯できる時代が訪れます。創作作業までこなす対話型AIの登場は、人類をどこに導くのでしょうか。

2014年にオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授が発表した論文「雇用の未来」には、「10年後になくなる仕事」としていくつかの職業が挙げられており、世界中に衝撃を与えました。対話型AIの登場によって、人の手が必要とされてきた創造的な仕事も、このリストに書き加えられるかもしれません。かつて機械が人類を単純作業から解放したように、AIが創作活動を解放し、職業という規定に縛られることなく、各自が“やりたいこと”をして生きられる時代が到来するかもしれません。

そのような時代に備えて、アートや自然をとおして感性と感受性を育み、また生産性に直接的には寄与しないアートや文学といった創作活動をとおして、自らの創造性を高める習慣を持つべきではないでしょうか。この結論は、図らずも昨年パッチ・アダムス医師を招聘して開催したイベント「MEME of PATCH ADAMS」で得た、自分を愛するためのウェルビーイング(well-being)な行動習慣と同じです。

AIを活用して情報を収集したうえで、自らの頭で考えて、意思決定ができる自律性を高める。そして代行可能な単純作業および創作業務はAIにまかせて、労働から解放され、主体的に人生を送れる日が到来します。便利さと危うさは表裏一体のため、あらゆるデータのファクトチェックを行う習慣や、デジタルタトゥーを予防するネットリテラシー教育は今以上に必要となるでしょう。いずれにしてもテクノロジーの進化を止めることはできない以上、AIと愛(ウェルビーイング)との関わり方を、真剣に考えるべき時代が来ているのかもしれません。

 

音楽から愛のある生活を始めよう。

 

 

Taku Miyake

医師・医学博士、眼科専門医、労働衛生コンサルタント、メンタルヘルス法務主任者。株式会社Studio Gift Hands 代表取締役。医師免許を持って活動するマルチフィールドコンサルタント。主な活動領域は、(1)iOS端末を用いた障害者への就労・就学支援、(2)企業の産業保健・ヘルスケア法務顧問、(3)遊べる病院「Vision Park」(2018年グッドデザイン賞受賞)のコンセプトディレクター、運営責任者などを中心に、医療・福祉・教育・ビジネス・エンタメ領域を越境的に活動している。また東京大学において、健診データ活用、行動変容、支援機器活用関連の研究室に所属する客員研究員としても活動中。主な著書として、管理職向けメンタル・モチベーションマネジメント本である『マネジメントはがんばらないほどうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)や歌集・童話『向日葵と僕』(パブリック・ブレイン)などがある。