遊び方に学ぶ公平な社会の作り方|MacFan

アラカルト Dialogue with the Gifted 言葉の処方箋

遊び方に学ぶ公平な社会の作り方

前回に続いて、ゲームの話題をひとつ。オープンワールド型アクションRPGで人気の、プレイステーション(PlayStation)4/5用ソフト「ホライゾン・フォビドゥン・ウェスト(Horizon Forbidden West)」を題材に、メタバース時代において誰も取り残さない「ウェルビーイング(well-being)」な社会のあり方について考察していきたいと思います。

「ホライゾン・フォビドゥン・ウェスト」のアクセシビリティ設定では、全体の難易度調整に加えて、敵に与えるダメージや敵から受けるダメージのレベルの調整ができるなど、各ユーザの嗜好に合わせてカスタマイズが可能です。また、ストーリー進行と併せて進める“アイテム回収”に関しても「簡易収集」システムを選択できるため、プレイヤーの性格がコレクタータイプかストーリー重視の時短タイプかなど、性格に合わせて決めることができます。

コントローラの設定は、左利き用を含むいくつかのコントロールのプリセットが用意され、すべてのボタンの機能を自由にカスタマイズでき、ボタンを押す、あるいは長押しの切り替え、X軸やY軸の反転などのオプションも用意されています。PS5のコントローラについたアダプティブトリガーの振動機能の振動の強さを変更できたり、プレイヤーが弓を構えたときに一時的に時間を遅くする能力の持続時間を長くしたり、自動ダッシュ、自動回復機能など、さまざまな操作に関する調整が可能です。

進行すべき方向が常にハイライトされる設定などもあり、リアルすぎる映像で現実世界と同様に迷子になる私にとっては、エンディングまで挫折しないでゲームをプレイするための大きな助けとなっています。ゲームの再起動時には、これまでの物語が画面に表示され、ロード時間にはゲームのヒントが流れるなど、忘れっぽい私も安心して物語を楽しめます。

オーディオ面では、BGM、ボイス、効果音それぞれのボリュームコントロールが可能で、聴力障害のプレイヤーを想定したモノラルオーディオ設定や、聴覚過敏なプレイヤーに配慮した、耳鳴りに似たトリガー音(機械の叫び声など)の除去機能、PS5版ではトリガー音のほか、武器や爆発音、環境音の音量を調整するオプションも追加されています。

視覚障害のプレイヤーを想定した字幕のサイズや背景色の選択に加えて、今回個人的に一番目に留まった機能があります。それが、2台目のコントローラに、1台目の操作設定をミラーした形でゲームへのアクセスを許可する「コパイロット(Co-Pilot)」システムです。これは視覚障害があるユーザやアクション操作が苦手なプレイヤーと、支援するプレイヤーが協力することで、2人で1人のキャラクターを操作し、ゲームを楽しむことを前提としています。視覚障害者の水泳や陸上競技では支援者とペアを組んで競技するのは一般的であり、今後はeスポーツでも普及する可能性があるでしょう。

また何よりも学ぶべき点は本システムが、視覚障害があるアクセシビリティコンサルタントの意見を反映して、フィードバックを受けながら日々アップデートされている点です。さまざまな理由で社会参加に対して困難を抱えている人々にとって、ゲームという知的な遊びへ参加することで、社会の障壁を壊すことができるのかもしれません。そんな視点から、もう一度ゲームを始めてみるのはいかがでしょうか。

 

君だけのスタイルで冒険を始めよう。

 

 

Taku Miyake

医師・医学博士、眼科専門医、労働衛生コンサルタント、メンタルヘルス法務主任者。株式会社Studio Gift Hands 代表取締役。医師免許を持って活動するマルチフィールドコンサルタント。主な活動領域は、(1)iOS端末を用いた障害者への就労・就学支援、(2)企業の産業保健・ヘルスケア法務顧問、(3)遊べる病院「Vision Park」(2018年グッドデザイン賞受賞)のコンセプトディレクター、運営責任者などを中心に、医療・福祉・教育・ビジネス・エンタメ領域を越境的に活動している。また東京大学において、健診データ活用、行動変容、支援機器活用関連の研究室に所属する客員研究員としても活動中。主な著書として、管理職向けメンタル・モチベーションマネジメント本である『マネジメントはがんばらないほどうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)や歌集・童話『向日葵と僕』(パブリック・ブレイン)などがある。