遊び人が賢者になれる理由|MacFan

アラカルト Dialogue with the Gifted 言葉の処方箋

遊び人が賢者になれる理由

1988年に販売されたゲームソフト「ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ…」。このゲームの職業選択と転職システムの概念は、現在の私自身の働き方に大きな影響を残しています。それくらい、私にとってゲームは単なる娯楽ではなく、多くの教育的効果を持っているもの。今回は公益社団法人NEXT VISIONと特定非営利活動法人Inclusive Fellowship Promotionとで、毎年実施しているゲームのアクセシビリティの祭典「G│1グランプリ」について紹介したいと思います。

G│1グランプリでは、視覚障害児・者がゲームを楽しむためにどのようなアクセシビリティ機能が活用できるのか、アクセシビリティ機能では補えないことをどのような工夫で乗り越えているのかを募集し、表彰を行っています。また医者や研究者が司会を務めてさまざまな障害を持つゲームユーザたちとゲームの教育的可能性を探る対話を行うシンポジウムでもあります。

一例として過去のシンポジウムで取り上げられたニンテンドースイッチ(Nintendo Switch)とプレイステーション(PlayStation)4の本体のアクセシビリティ機能について紹介します。ニンテンドースイッチには配色変更やズーム機能が標準搭載されており、ホーム画面の設定メニューからホーム画面の色を[設定]→[本体]→[画面の色合いを変える] の手順で、[色を反転]や[グレースケール]に変更する機能があります。

ただし、[色の反転]はゲームプレイ映像を含むすべての画像を反転させてしまうため、[設定]→[本体]→[テーマ]という手順から[ベーシックブラック]を選択することで、本体のメニュー操作だけは画像の色合いを崩すことなく、白黒反転に切り替えて操作する工夫がシンポジウム内で紹介されていました。

一方、プレイステーション4の場合は、[設定]→[アクセシビリティ]と手順を進めると、[色を反転する][ズーム][大きな文字][太い文字][ハイコントラスト]が選択でき、[設定]→[システム]→[声で操作するための設定]→[声で操作する]の手順から音声操作も可能となっています。これを活用することで、ゲームの起ち上げなど、簡単な操作については実行することができます。

コロナ禍によっていっそうゲーム人口は増加傾向にあるため、“誰も取り残さないゲーム環境”の実現にはゲーム機本体のアクセシビリティ機能の充実はとても重要であると私は考えます。また視覚障害者の多くが情報をスマートフォン端末から入手しているという報告もあり、端末自体のアクセシビリティ機能への対応レベルも、今後障害者がゲームを購入する際の大きな指標となることが考えられます。なお今年のG1グランプリや過去の動画は公益社団法人NEXT VISIONのWebサイトから視聴可能ですので、ぜひご視聴ください(A https://nextvision.or.jp/join/g1-grand-prix/)。

話は冒頭に戻りますが、ドラゴンクエストⅢには、入手困難な「さとりのしょ」の使用が転職条件である「賢者」という職業があります。その一方で、チームに貢献してくれるか不明な行動をする迷惑な職業である「遊び人」をレベル20まで育てると、「さとりのしょ」を入手しなくても賢者に転職できるというシステムが存在しました。一見無駄に見える「遊び」という崇高な行為を極めた者におりてくる「悟り」。それが今も私が遊び心を忘れずに生きる理由かもしれません。

 

人生に彩りを与えるゲーム。単に遊ぶか、本気で遊びかはあなた次第

 

 

Taku Miyake

医師・医学博士、眼科専門医、労働衛生コンサルタント、メンタルヘルス法務主任者。株式会社Studio Gift Hands 代表取締役。医師免許を持って活動するマルチフィールドコンサルタント。主な活動領域は、(1)iOS端末を用いた障害者への就労・就学支援、(2)企業の産業保健・ヘルスケア法務顧問、(3)遊べる病院「Vision Park」(2018年グッドデザイン賞受賞)のコンセプトディレクター、運営責任者などを中心に、医療・福祉・教育・ビジネス・エンタメ領域を越境的に活動している。また東京大学において、健診データ活用、行動変容、支援機器活用関連の研究室に所属する客員研究員としても活動中。主な著書として、管理職向けメンタル・モチベーションマネジメント本である『マネジメントはがんばらないほどうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)や歌集・童話『向日葵と僕』(パブリック・ブレイン)などがある。