目で聞いて耳で見る新しい世界|MacFan

アラカルト Dialogue with the Gifted 言葉の処方箋

目で聞いて耳で見る新しい世界

昨今、映画やドラマを動画アプリで視聴することが日常的になりました。私も多くの作品を、ときには仕事の合間を縫って、倍速再生も活用しながら、忙しい日々の中で楽しんでいます。先日勉強会へ行ったとき、最近患者たちの中で「アップルTV+(Apple TV+)」の評判が良いという噂を耳にしました。その理由を聞くと、多くのコンテンツが「ある機能」に対応しており、耳で楽しむのに最適だからだそうです。

皆さんは、アップルTV+の動画にアクセシビリティ機能が備わっているのをご存じでしょうか。今回は、これらのアクセシビリティ機能が視覚や聴覚に困難さがない人にとっても、新たな可能性があるのではないかという展望をお話します。

iTunesストアやアップルTV+で配信されている作品には、CC(クローズドキャプション)、SDH(耳の不自由な方向けの字幕)、AD(バリアフリー音声ガイド)といったアクセシビリティ機能が用意されています。1つ目のCCは、ビデオの中の会話を、会話以外のコミュニケーションも含めて、文字に起こして画面に表示する機能。2つ目のSDHコンテンツはCCと少々似ていますが、「CCが用意されない場面でも SDHのコンテンツなら用意されていたり、別の言語も付属していたりすることがある」とアップルは説明しています。3つ目のAD付きのコンテンツは、オーディオトラックを活用しながら、画面上で何が進行しているのかを解説してくれる機能です。

これらの機能は基本的には目や耳に障害がある方向けの機能ですが、実は勉強会でその話を聞いて以来、私自身もこれらの機能を活用できることに気づきました。

12年前、私が視覚障害者へiPadやiPhoneの活用を伝え始めたある日、気合を入れてキーノート(Keynote)を作成し、プレゼン会場を訪れました。そこで目にしたのは、とても多くの聴衆が盲導犬と一緒に参加している風景でした。それを見た瞬間から、スライドを使った視覚的なプレゼンでは、私が情報を届けたい人に対して、メッセージが十分に伝わらないと確信。それ以降、話し方に細心の注意を払うようになりました。

好きなドラマや映画をAD機能で視聴すれば、新しい視点でお気に入りの作品から気づきや学びを得ることができます。また、電車や空港内で外部の音声インフォメーションを確認しながら動画を見るときや、音声の確認が難しい状況でビデオを楽しむ際には、CCやSDHの機能を使うことで、今までとは違った形で音声情報を視覚情報として受け取ることが可能となります。

業務のリモートワーク化が進んだことで、私が行う企業での対話研修でも、「相手が正しく情報を受け取れるような伝え方」に関する研修を行ってほしいと依頼される機会が増えました。こういった対話研修においても、アテレコを各人が考えるなど、ADなどの機能は「教材」としても十分活用できるのではないかと私は考えています。

実際にモノを手に取れないインターネットショッピングにおける商品説明の文章の書き方など、伝わる言葉を選択するスキルは、これからのビジネスやメタバース時代には潜在的なニーズがあるのかもしれません。自分の業界に関係があろうとなかろうと、新しい視点や情報の受け取り方を増やすことは、すべての人の人生を豊かにしてくれるでしょう。

 

あなたは目で聞く? 耳で見る?

 

 

Taku Miyake

医師・医学博士、眼科専門医、労働衛生コンサルタント、メンタルヘルス法務主任者。株式会社Studio Gift Hands 代表取締役。医師免許を持って活動するマルチフィールドコンサルタント。主な活動領域は、(1)iOS端末を用いた障害者への就労・就学支援、(2)企業の産業保健・ヘルスケア法務顧問、(3)遊べる病院「Vision Park」(2018年グッドデザイン賞受賞)のコンセプトディレクター、運営責任者などを中心に、医療・福祉・教育・ビジネス・エンタメ領域を越境的に活動している。また東京大学において、健診データ活用、行動変容、支援機器活用関連の研究室に所属する客員研究員としても活動中。主な著書として、管理職向けメンタル・モチベーションマネジメント本である『マネジメントはがんばらないほどうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)や歌集・童話『向日葵と僕』(パブリック・ブレイン)などがある。