パラダイムシフトする医療の未来予想図|MacFan

アラカルト Dialogue with the Gifted 言葉の処方箋

パラダイムシフトする医療の未来予想図

アップルウォッチ(Apple Watch)に代表されるウェアラブルデバイスの普及に伴い、手首で血中酸素濃度や心電図を測ることが可能となりました。近い将来、これまで医療機関でしか計測不可能であった血圧や血糖値などのさまざまな生体情報が常時モニタリング可能な時代になると考えられます。個人的には、医療機器を介さない生体情報の常時モニタリングという概念の登場は、医療業界全体の価値観を根底から変えるほどのインパクトを持っていると感じています。今回は今後起こる医療のパラダイムシフトから、医療の未来について考察していこうと思います。

皆さんが健康診断や人間ドックを受検した際に手渡される血圧や血糖値、血中脂質等の検査結果は、すべて検査を受検した日における瞬間的なデータであると言えます。一方で生体内のあらゆる分泌物はホメオスタシス(生体恒常性)を保つために、相互に影響し連動することで流動的に機能しています。つまり一瞬の情報の切り取りで得られる生体データでは前後の時系列を踏まえた流動性を捉えることはできず、これまでの医療は管理上の正常値という統計学的な平均値を持って健康を管理、目標を設定してきました。

身長や体格に個人差があるにもかかわらず、統計学的な平均値を基本とした正常値という画一的な健康管理という考え方が適切かは議論の余地を残しつつも、現実的に生体情報を計測できる代替法がない中で医療は発展せざる得なかった背景があります。最近では医療現場における保健指導においても、正常値にこだわりすぎず、経年変化を注視する傾向が強まっています。一方で、ウェラブルデバイスによる生体モニタリングは変化率や流動性も含めて最小単位で継続的に計測が可能であることを踏まえると、今後医療における健康管理も“個別最適化”ができる時代の到来を意味しています。

つまり、体調が悪くなってから病院に行く時代は終わり、各デバイスが各個人に最適化された生体情報を最適に保つために常にモニタリングし、フィードバックすることで、健康管理をする時代が到来することを意味します。そのような個別最適化された健康管理の中で人々は、医療過剰な状態から解放されて、必要最低限の医療を受け、持ち得る身体特性の中で常に最高のパフォーマンスを維持しながら人生を豊かに謳歌できるかもしれません。

常時モニタリングによるパラダイムシフトは、医療以外の業界においても同じように破壊的なインパクトを持つ可能性があり、ぜひ皆さんもこれまでの常識を疑うことで、ご自身の分野における価値を見直す機会となってもらえたらと思います。近い将来、主治医を身に纏う時代、医療とファッションが融合する未来が訪れるかもしれません。

 

健康は「全体管理」から「個別最適管理」の時代へ。

 

 

Taku Miyake

医師・医学博士、眼科専門医、労働衛生コンサルタント、メンタルヘルス法務主任者。株式会社Studio Gift Hands 代表取締役。医師免許を持って活動するマルチフィールドコンサルタント。主な活動領域は、(1)iOS端末を用いた障害者への就労・就学支援、(2)企業の産業保健・ヘルスケア法務顧問、(3)遊べる病院「Vision Park」(2018年グッドデザイン賞受賞)のコンセプトディレクター、運営責任者などを中心に、医療・福祉・教育・ビジネス・エンタメ領域を越境的に活動している。また東京大学において、健診データ活用、行動変容、支援機器活用関連の研究室に所属する客員研究員としても活動中。主な著書として、管理職向けメンタル・モチベーションマネジメント本である『マネジメントはがんばらないほどうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)や歌集・童話『向日葵と僕』(パブリック・ブレイン)などがある。