「このホールは、右のホールから球が来ますのでご注意ください」
キャディに言われて頷いて、僕は一目散に右の林に向かって走り出した。僕のボールは林の中に飛んでいったからだ。
「フォアー」
「フォアー」
二人の声が隣のホールからした。
早速、ボールが飛んできたらしい。一応、足を止めて頭を手でかばう。10Yほど前の林の中にボールは、ぽとりと言う感じで落ちてきた。
気を利かしたつもりで、そのボールを覗き込む。その瞬間、僕の動きは止まった。大きな狸が印刷されているボールだった。
その狸の印刷は、僕と職場の仲間が上司の為に特別に注文して作らせて、上司の誕生日にシャレでプレゼントしたものだった。自分がデザインしたものを忘れるはずがない。
僕のボールはもっと先の林の中にあると思われた。このまま進んでいけば、このボールの持ち主と遭遇することになる。パニックになった。僕は風邪だと会社に偽ってゴルフに来ていたからだ。ゴルフ場の林の中で上司に会うことは悪夢だった。