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ゴルフのおかげで、旅、友、嬉し涙 二の旅 探訪 ~いた!ピーター・ヘイがトイレに~

【第1回】ウィスラーのコースの先住者たち ~カナダ~

2017.03.29 | 鈴木康之

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 「カナダのウィスラーで新しい仕事につきました。桁外れに広く大きく、町はほんとに美しいし、人間はだれもかれもが温和です」と、旧知の若い女性からエアメールが舞い込んだ。彼女の相方はウィスラーのツアー・エージェントをしていると言う。スキー・リゾートのオフシーズンの観光客誘致政策でゴルフ・リゾートの長期計画が進行中、すでにA・パーマー、R・T・ジョーンズ・ジュニア、ボブ・カップら名設計家のコースがいずれも開場年度のベストコース・ランキングに入ってきたと言う。しかも「J・ニクラスの期待の新コースがほぼ完成。開場前にプレーできる人脈がありますが、いかがでしょう」というオイデオイデに誘われた。

 1995年の夏。もちろん初めてのカナダ旅行だった。バンクーバーからクルマで2時間余り北上して、ウィスラーに入った。町のど真ん中のアパートの一室をとってくれていた。オーナーが出掛けている間レンタルしているのだった。相当古いが家具、食器などをすべて使える。

 着いていきなりウィスラーGCへ連れていかれた。町の真ん中からスタートして丘を登って帰ってくる。セントアンドリュース・オールドコースのウィスラー版である。パーマーの設計らしい伸び伸び楽しめるコースだった。

 

 

 旅の疲れもあったが、18ホールスルーで疲労困憊した。その頃はまだスループレーには慣れていなかったこともあるが。思えば手引きカートなるものが初めての体験だった。格別疲れた原因がもう1つある。手引きカートを2つ引いたからである。ワイフはもちろん手引きカートが初めてで、プレー場所と置き場所の関係が分からない。私自身が知人夫妻の手慣れてしかも早足のラウンドについていくのが精一杯。そこでラウンドの半分ほどは両手で2台の手引きカートを操ることになった。両腕と腰があれほど疲れたゴルフは後にも先にもない。

 最近ホームコースにしている古河の河川敷で手引きカートを引きながら、ウィスラーの初日のへとへとを懐かしく思うことがある。

 

 ニクラス・ノースGCはオープンの1カ月半前、ファシリティ施設や周辺コテージのモデルハウスが慌ただしく建築中だった。知人の人脈とは設計チームのメリアンヌ・ウエイド女史だった。

 真ん中にバンカーのある2ホール共有のドーナッツ型グリーンを初めて見た。次のティーインググラウンドまで続いているグリーンも初めてだった。芝刈り機が歯を下ろしたまま稼働できるから能率的なのだそうだ。歯の高さは機械上で操作できると言う。フェアウェイのセンターに立つヤーデージ杭などというものにも驚いた。全体にワイドでフラットながら、スリルもあるコースだった。

 新しい試みが随所に見られて面白かった。正直にそのことを言うと、長身のウエイド女史は悠然とした顔で「これだけ広大で豊かなグラウンドがあれば、コースのアイデアは無限に出てくるわ。18ホール分しか使えないので残念」と笑って言ってのけ、それからマジな顔つきになった。

 ここは山の岩石の緑色素が溶け込んだグリーンレーク湖畔。広大なウエットランドであるため自然保護が最大の課題だったと言う。「ゴルフ場を作ることになって地元から反対運動が起こったけれど、すぐに彼らは協力者になったわ。なぜかというと彼らの要求よりもっとハードルの高い開発条件を私たちの側が設けていたからよ。自然というのはそのまま放っておけばいいってものじゃないの。多種の樹木、この地だけの小さな花々、獣たちから土の中の微生物まで、生きものたちすべての生存環境をもっと永続的に整備しようというのが私たちの大計画なの」。

 通訳役の知人は、私に日本語で聞かせる前に、しばしば本人が「ウーン」と唸って感心する始末。「なんだって」と私はせっつきながら話を聞いた。カナディアン・ロッキーも壮大だが、チーム・ニクラスの仕事のスケールも壮大だと感嘆したものだった。

 「ここではゴルファーはプレーを我慢しなければならないことも起こりうる」と不可解なことも言った。「なぜ」と問うと「ゴルファーより先に住みついている生きものがいるわけよ。優先権は先住民である彼らにあるわ。彼らがコースの中で生存するための活動をする時は、ゴルファーは当然プレー中止よ」。

 どこかで聞いた話と同じである。ゴルフの故郷スコットランドには、ボールがアザミの花に寄り添って止まったら1罰打を払って他へドロップ、そうしてプレーを続けよ、権利は先に咲いている先住者にある、という教えが言い伝えられている。

 先日、ゴルフ専門チャンネルでトップ・プロ4人のエキジビション・マッチがあった。完成したニクラス・ノースの美しい風景を見た。

 

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