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ゴルフ千物語①

【第09回】The dead body(遺体)

2017.05.19 | 篠原嗣典

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The dead body(遺体)




追加議案は満場一致で可決された。Xゴルフクラブ理事会は、僕が理事になってから初めてコーヒーが冷めない時間で終わった。僕は、目の前に置かれたコースの改造案の最終版を手に持ちながらQさんを思い出していた……

Qさんは僕の祖父と共にXゴルフクラブを造った人物だ。祖父とは親友で家族付き合いをしていたので、僕からすれば血は繋がっていないが親戚のようなものだった。

温和で人格者として通っていた祖父とは対照的に、喧嘩早く、大声で人を恫喝するようなところがあったQさんを煙たがる人も多かったが、その根底は正義感があったことから信頼はされていた。

僕の両親もQさんのことをあまり好きではなかった。だから、祖父が亡くなった時に、空席になったXゴルフクラブの理事に父は就任せず、一つ飛ばしで僕に御鉢が回ってきたのだ。

父がQさんを避けた分、僕はQさんと話をする機会が元々多かったので、幼い頃からたくさん苦労話を聞かされていた。だから、少なくともXゴルフクラブに関しては、僕の方がその成り立ちを始めとして詳しかった。年齢的な理由で、僕の理事入りに反対する人もいたが、Qさんの尽力があって僕は理事入りした。5年前のことだ。

そして、先月。Qさんは亡くなった。僕を理事にしたことを後悔していたのではないだろうか?

僕もQさんに負けないぐらいXゴルフクラブを愛しているつもりだった。理事になって直面した問題は、老朽化しているコースの改良だった。

祖父とQさんがコースを造る際のエピソードで最もドラマチックな場面は、天才的なコース設計家だが、気難しい完璧主義故に設計コースが片手で数えられることで有名だった人物が、祖父とQさんの様々な作戦が功を奏してXゴルフクラブの設計を了解する場面である。

天才と評価された設計は、半世紀経ってその評価に値することを証明していた。時代の流れで世界中のコースが距離の延長を求められ、その実現に苦慮するのに、Xゴルフクラブにはこの日が来ることがわかっていたようにティーグランドの後に余地が残されているのだ。

祖父が、生前に、コースの全長を1割程度伸ばした図面もあり、飛ばない者には太刀打ちできないと驚いた、と話していたような記憶があり、クラブの納戸の資料を探してみると凄いものが見つかった。一見不必要な余地は、この為のものだったと一目でわかる全長が1割程度長いXゴルフクラブの設計図面だった。

僕は、愛すべきXゴルフクラブの為に、新しい設計図に則った改良案を作成し、理事会に諮った。満場一致で可決されると思った改良案は、Qさんの強固な反対に遭い先送りとなった。

それから約5年間、僕はQさんと会うたびに喧嘩になった。理事の大半は改良案に賛成しているムードだったが、理事会では理由なく抵抗するQさんに面と向かって意見するのは僕だけだった。

僕はQさんと言い争ったことを一つ一つ思い出していた。何故、コース改良に反対するのか? その答えは結局わからないままになった。『Qさん。Xゴルフクラブは僕が責任を持って進化させます』心の中で僕はQさんに誓った。

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