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ゴルフ千物語①

【第08回】Trust no one(誰も信じるな)

2017.03.06 | 篠原嗣典

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Trust no one(誰も信じるな)




彼が有名になったのは、高校野球での活躍だった。トーナメントで優勝こそ逃したが、最近では珍しいエースで4番、投げる方でも打つ方でもプロのスカウトが即戦力と太鼓判を押した。それに、彼はまだ2年生だった。

人の噂も何とやらで秋風が吹く頃には、彼を話題にするのはごく限られた人になったが、彼は今度はテニスの大会で大活躍をする。異なった種目でも活躍する天才は、冬にはサッカーで活躍した。3年生になる時に、サッカーでプロ契約をしてしまったので、野球での出場の機会がなくなったが、その分、水泳などのサマースポーツで記録を出した。国中が、史上最高の天才の登場に注目した。

高校生活最後の年、そのような活躍と同時にサッカーのプロとしてデビューするも、1シーズンのみで惜しまれながら引退し、最高難易度の国立大学を受験、見事に大学生になり、運動だけではなく頭脳の優秀さも証明したのである。

大学生になった彼は、団体競技ではなく個人で出来る競技のみを続けるとマスコミに宣言し、野球ファンやサッカーファンを落胆させた。彼がその優秀な頭脳と年齢からは考えられないほどの経験で選択した競技はゴルフだった……

彼は考えた。団体競技はどんなに頑張っても一人の力に限界があるが、個人競技なら自分の限界が全てで、人の為でもひとのせいでもないから自分に合っているはずだと。ゴルフなら、用具を揃えれば、後はどうにかなりそうだ。

海の向こうでは、天文学的な数字の金額を稼いでいる若いゴルファーがいた。この選手とライバルになり、突き放すことが出来れば、人がついた餅をそのまま食べるように簡単に名声とお金が入ってくる。

彼は、今までそうだったように徹底して資料を集めた。多くのデータを統合し、共通点のみを抜き出す。それに自らの体が最も合うと思われる方法を選び、それに自分をアジャストするようにひたすら練習する。練習は適度に辛い方がマッスルメモリーしやすい。彼は順調に計画が進んでいることを自覚していた。

ゴルフのコツがあるとすれば、完全な再現能力と球を飛ばす力、そして状況判断能力だと彼は確信した。彼は、大学のゴルフ部に入部し、学生の試合に出場した。学生の試合だと思えないほどのマスコミとギャラリーを引き連れて、予選代わりになっている小さな試合に立て続けに優勝した。たった数ヶ月でオフィシャルのハンディキャップを0にした天才に、多くのゴルファーは羨望の眼差しでため息をついた。海の向こうの若き天才と戦う日は、思ったより早く来ると誰もが思っていた。

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