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ゴルフプラネット 第38巻

【第1回】まえがき/パー3で感じること

2016.10.13 | 篠原嗣典

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まえがき

 

 38巻は2009年にゴルフコースについてというテーマで書いたものをまとめたものです。

 

 メールマガジンのゴルフプラネットは、パトロンというファンクラブ的な応援団を毎年募集しているのですけど、そこからのリクエストに応える形で2009年からサポートブログ『ゴルフ惑星』との連携を強化することになります。

 ブログ用の画像を撮るために、積極的にカメラをコースに持ち込んで、プレーの合間にシャッターを切ることになりました。

 結果として、ゴルフコースの理解が深まりました。

 

 肉眼ではわからないことがレンズを通してわかったり、陰影がないと伝わらないシーンを撮るために太陽の位置や方角などを考えることは、ゴルフコースの裏側にあった物語を知るきっかけになったりしたのです。

 撮るゴルフがあるとは言いませんが、ゴルフの魅力の奥深さには驚嘆させられます。

 

 どんなに素晴らしい道具も持っていても、磨き上げた技術を持っていても、ゴルフコースがなければゴルフはできません。

 ゴルフ好きはたくさんいますし、誰でも自称することが可能で特別な資格はありません。でも、ゴルフコースが好きな人は自称するだけでは認めてくれません。

 この本が、ゴルフコース好きと周囲に認められるための手助けになれば本望です。

(2014年3月)

 

パー3で感じること

 

 ゴルフを始めて、最初のラウンドでバーディーが出た。パー3だった。パー3は、ショット1回とパット1回でバーディーになるのだから易しいと思った。私は大人になるまでパー3が大好きだった。

 

 今でもパー3は好きだ。特に、新しいコースではパー3に注目してプレーする。理由は、多くの設計家が腕の見せ所だと張り切った様子が想像できるからである。

 

 ゴルフコース設計家になりたくて勉強している人はゴルフ史上で現在が最も多い。でも、実際にコースを設計することで名を残せる人はほんの一握りだ。だから、1回のチャンスを最大限に利用するように考えるのは、当たり前の理屈である。

 

 その際に、最も重要視されるベーシックの一つがパー3なのだ。

 

 パー4やパー5はルートが複数あったりする関係で、アングル一つとっても複数の視点を考える必要があるし、使用するクラブの設定もあらゆる層というように考えれば、その分可能性を広げなければならないので設計意図はぶれるのだ。

 

 パー3は、ティーという場所からグリーンを狙う。アングルが固定されているので、見せるという要素を満たしやすい。しかし距離に制限があり、かつ、限られた面積という制限もあるので、たくさんの要素を入れることは難しい。シンプルな装飾とその配置。グリーンの形状や傾斜。短い文章で意図を伝えたいという意味では、詩はパー4とかパー5、パー3は俳句だという人がいるが、言い得て妙だと感心する。

 

 パー3には色々な意図が入っているケースが多々あるのである。それも4つあるケースが多いので、そのバランスも含めて面白い。

 

 例えば、マスターズのオーガスタのバック9は、12番と16番というパー3の存在が欠かせないし、川奈の富士コースでも16番(トーナメントでは17番)のパー3は圧倒的な印象を与える。その他にも、パー3がコースの顔になっているような例はたくさんある。

 

 逆にマンメイドのコースでパー3に工夫が見られないコースは、ピリッとしない緩い印象になってしまうので、多くのコースが改良してまでパー3を良いものにしようという動きがあるのも見逃せない事実である。

 

 新鋭の設計の中には、図面を起こす際に、最初にパー3の位置を決めるという人が多いのは、それが評価になることを知っているからだ。新しく出来たコースの多くでは、パー3をじっくり観察するだけで十分にコースを楽しめる。

 

 パー3は1ショットでグリーンに到達する分、ショットに対する難易度を上げても良いという不文律もある。

 

 昔は簡単だと思っていたパー3も、狙い通りではないショットが結果オーライになるようなことが少ないので、良くできていると感心するホールほど、難しいなぁ、とわかってきった。

 

 例えば、パー3は寄せワンが出来ないようなライがたくさんある。落としてはいけない場所が明確になることは、多くの場合で有利になるのに、パー3ではプレッシャーになったりもする。一つには、設計者の思い入れがわかる分、敏感になってしまうからなのであろう。

 

 概念だけわかっても楽しめないと思うので、少しだけ楽しみ方について書くことにする。まず最初に、バランスが大事なのだという意味をわかりやすく説明する。

 

 最もわかりやすいの距離と難易度のバランスだ。長い距離のパー3はそれだけで難しいので、それ以外の難易度を上げる要素を入れるのは重いバランスになって、難しいだけでつまらないホールになってしまう可能性がある。逆に、短いパー3では難易度を上げる要因を目立たせることでバランスの良いホールになる。

 

 ピート・ダイの代名詞である浮島グリーンのパー3は、フルバックでも短いものが多いのは、まさにバランス感覚が重視されている証拠である。

 

 次にグリーンの形状と傾斜である。縦長のものは左右へのブレを戒め、横長ものは距離のブレを戒める。グリーンの面積もショットには大きく影響するし、大きさによって傾斜をつけられる限界が変わるので影響がある。パットもさることながら、グリーンを外したあとのアプローチで、縦の傾斜に打つのと横になっている傾斜に打つのでは、前者が各段に易しい。グリーン回りでのボールが止まりやすい場所の設定と傾斜の関係まで想像できるようになれば、パー3は新しい顔を見せてくれることもある。

 

 更に、ティーという限られたアングルから打つ特性を活かす意味でツリーラインと言われる、林のせり出しや立木などを利用して、空間についても制限を設ける手法もある。2次元のレイアウトだけ見れば簡単なのだが、目の前にしてみると求められる弾道をイメージできなければ攻め手がないパー3もある。こういう難易度については、逃げ道を作ることでバランスを取ることが出来る。

 

 攻略ラインだけではなく、逃げ道も評価になるとなれば、ピンポジションや風によって、行くたびに印象が変わる面白いパー3だと言えるのである。

 

 さて、そのようにしてパー3を堪能しようとしてみると、大きな問題があることに気が付く。

 

 グリーンを適度に見下ろすようなパー3しか評価しづらいのだ。打ち上げのパー3は直接視認できないので、初見の場合はお手上げである。

 

 米国のスタンダードは、明らかに打ち上げのパー3を否定する方向にある。ティーを盛土して高さを出したり、グリーン面を下げたりする改造は、今やマニュアル化されているともいえるほどだ。これは米国が比較的平らな土地に恵まれていることを背景にしている。

 

 私は、この点については好みの問題だと考えている。打ち上げのパー3やブラインドのパー3にも、名ホールと呼ばれる歴史を否定したくないことと、経験値が有利な技術になるホールがあっても良いと考えるからだ。

 

 日本の古いコースでは、隙間をパー3で埋めるという傾向があったので、打ち上げのパー3が結構ある。あるのであれば、文句を言わず、しっかりとプレーするのがゴルファーの正しい態度である。

 

 現に、そういうホールでも本当に感心させられる作りのものはあるし、プレーしていても楽しいホールもある。

 

 パー3を想定してショットの練習をすることが私には多々ある。それはパー3で失敗すると、流れが悪くなってしまう経験が生み出した知恵である。

 

 パー3だけでもゴルフ談義が出来るのはゴルフ談義の上級者だけかもしれないけれど、パー3は覚えやすいので初心者でもプレー後の反省がしやすい。

 

 1年の初めに、パー3のことを色々と想ってみるのも悪くはない。パー3はコース攻略の基本である。

(2009年1月14日)

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