【第1回】まえがき/落札 | マイナビブックス

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ゴルフプラネット 第37巻

【第1回】まえがき/落札

2016.10.13 | 篠原嗣典

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まえがき

 

 37巻は2009年に書かれたものをまとめたものです。

 

 石川遼プロが日本国内の賞金王になった年で、顔と名前が一致するスポーツ選手として、イチローについで2位になり、石川プロの大ブームだった一年でした。

 子供から大人まで石川プロファンが氾濫しました。日本のゴルフが大衆化していく中で、最後の一押しがこの現象だったのだと、振り返って思います。

 

 父親の癌が見つかる話が出てきます。膀胱癌は内視鏡の手術で、きれいに取ることができましたが、その後、再発をしたり、別の場所に癌が見つかったりしながら、父は現在でも元気にゴルフをしています。

 癌が見つかったことは書いているのに、その後の話がない、と心配したメールをもらうことがありました。事前に無事を伝えるのはちょっと違うかも知れませんが、安心して読んでいただければ幸いです。

 

 ゴルフの喜怒哀楽をテーマに書かれた37巻は、色々なゴルフについてのお話が書かれています。

 幸せなゴルファーとは? というちょっと不思議な話が出てきます。

 ゴルフがあるだけで十分幸せであることは間違いなのですけど、読後に、幸せだなぁ、と感じてもらえるように祈っております。

(2014年3月)

 

落札

 

 オークションで落札したことが昨年の11月まで1回もなかった。実は、出品したことも1回もない。

 

 ゴルフ関連のオークションはよく見る。8割方は、人から相談されてコストに見合うかどうか、感想を伝えるために見る。残りの2割は、何かの検索していて辿り着いてしまうケースだ。

 

 根っからのお節介体質で、頼まれると嫌と言いづらいので、オークションは個人の判断で、私の感想に責任はないと何度もしつこく確認しつつ、結構丁寧に相談に乗ってしまったりする。

 

 最近感心することは、目利きが結構いるなぁ、ということと、一昔前のように落札するのに熱くなって、お得感がない入札合戦がなくなったことだ。

 

 私の古い知り合いで、昨年の春まで、中古屋さんで二束三文で売られているゴルフクラブを探しては、ネットオークションで高値で売って小遣い稼ぎをしていると豪語している人がいた。

 嘘か本当かは知らないが、まあ、見栄を張ったりするタイプの人じゃないし、クラブの知識もある人なので本当だろうと思っていたが、昨年の夏に、もうそういう時代じゃないよ、と語っていた意味がわかる気がする。

 

 それでも、片手間の副業としてやっていると思われる出品者は存在するので、人生色々である。

 

 良いものは、それなりの値段になるようになるが、悪いものやコストが合わないものは見向きもされない。オークションも、やっと正常化してきているのかもしれない、と思っていた。

 

 昨年、オークションでないと手に入らないものを落札した。探してもどうにもならない廃盤品や中古市場がない分野などのものが、個人で持っていて売りたいケースは結構あるのだ。予定した金額の半分以下で購入したのは、実際に発泡スチロールのボールを人形を操って打たせるゴルフゲームである。

 

 オークションの本当の存在意義を知った経験だった。でも、ゴルフ用具を買うことはないと思っていた。

 

 そもそも、私は中古品が好きではない。ゴルフ用具には『魂』や『気持ち』が入っていると思っているので見知らぬ人の怨念などが入っていたら怖いからだ。まさに、触らぬ神に祟りなし、だと思っている。

 

 オークションには新品も出ているけど、それは探せばもっと安く買える別のショップがあるものだから、それも利用価値がない。

 

 相談に乗るケースでも、多くの場合、私の感想は「俺なら、絶対に買わない」か、「どうしてもいうなら○○円までかなぁ……」というものばかりだった。

 

 ところが、本当に偶然なのだが、ずーっと探していたものがオークションに出品された。手に入れる手段はいくつかあったけど、面倒だったり、簡単な方法だと異常に高額だったりして、ランクを落とした代用品を買おうとしていた。

 

 その内わかるだろうけど(ブログには紹介するだろうという意味)、ハイブリッドの4番相当を探していたのだ。2番が本当に使えるヤツなので、更に4番を入れることでもっと楽しくゴルフをしたいという作戦である。

 

 現在使用しているハイブリッドは、昨年後継上位機種が出ている。米ツアーの評判も良いが、日本の代理店はそれを日本市場で発売する予定がない。どうせならそれの4番が欲しかった……

 

 オークションに出ているのを見つけたとき、震えた。感動したのだ。

 

『ゴルフの神様。ありがとう!』

 

 誰も、この商品を見ないでください。見ても良いけど、入札しないでください。と祈った。

 

 ネットゴルファーの目利きは増えた。恐ろしく安かった最低落札額なんて忘れてしまう感じで、日々、金額は少しずつ上がった。このクラブ、日本の並行輸入ゴルフ屋さんの販売価格の6割ぐらいの金額で、米国の安いショップであれば流通している。その金額までなら出してもイイかなぁ、と思って見ていた。もちろん、ドキドキしながらである。

 

 最終日、数時間前に、その金額まであと少しになった。私も参戦した。最低流通金額より2割ぐらい安いところで、一人を除いて降りた。私は落札できるかと安心したが、残り30分で逆転された。

 

 しかし、結局、落札できた。

 

 逆転されたときに、本当は競るつもりはなかった。私の勝手な思い込みであるが、競り合った知らない相手が、そこまでして欲しいのであれば、これ以上競り合わずにに譲ろう、と思ってしまったのだ。

 

『わかる。これ、本当に良さそうだもんね!』と肩を叩き合って納得し、爽やかにゴルファー同士として『大事に使って、エンジョイ・ゴルフ!』と、さよならしようじゃないか、と。

 

「そんなに欲しいなら、ドカーンと行きなよ」と妻が言ったのだ。寂しげな遠い視線で、見たことがない相手にエールを送り、指をすり抜けるように逃げていくクラブを思っているときだった。

 

「そうなんだけどさぁ……」

 

 私は躊躇したが、ランクを落として配備するにしてももう少し金額は張る。どうせなら、この機会を逃すのは得策ではない。思い切って、もう一勝負だけするか! と再入札したのだ。

 

 落札した瞬間、私は妻の目もあったので派手に喜んだ。喜びながらも、ほんの少しだけ悲しい気持ちが心の片隅にあった。そんなノスタルジックな気持ちは、クラブが手元に届いてしまえば消えてしまうだろう。

 

 安い買い物だったといえるのは、実際に使ってみて、その機能を堪能してからだということは十分承知の上、この落札が、私のゴルフを変えることになるという確信がある。

 

 ロングアイアンが得意であることは自慢ではないが、誇りではあった。その誇りを捨ててまで、得ようとするものは何なのか、私はわかっているのだろうか?

 

 そんな自問自答をしているゴルファーとしての自分が、馬鹿みたいで大好きなのだから……

 

 今年も懲りない1年になりそうである。

(2009年1月13日)

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