「もんちゃん嫌い! あっちへ行って!」
こよみちゃんは、黒猫のもんちゃんに言いました。
もんちゃんは、こよみちゃんが幼稚園から帰ってきたのが嬉しくて、こよみちゃんにすり寄ったのです。
もんちゃんの首輪の鈴が、チリンチリンと鳴りました。
でも、こよみちゃんはもんちゃんが大嫌い。
大きな声を出して、もんちゃんを追い払ってしまいました。
もんちゃんがこよみちゃんのお家に拾われてきたのは、去年のことです。
まだ赤ちゃんだったもんちゃんは、頭を撫でようとしてきたこよみちゃんに驚き、こよみちゃんの手をひっかいてしまいました。
それからこよみちゃんは、もんちゃんの事が大嫌いになったのです。
こよみちゃんに大声をだされたもんちゃんは、悲しそうな顔をし、どこかへ行ってしまいました。
鈴の音が、チリンチリンと遠ざかっていきます。
ママは、こよみちゃんに「もんちゃんは、こよみが大好きだから、遊んでほしくて近寄ってくるのよ」と困った顔でいいました。
でも、もんちゃんが遠くへ行って、こよみちゃんはホッとしていました。
また、もんちゃんにひっかかれたらと思うと、とても怖くなるのです。
次の日のこと。
幼稚園から帰ってきたこよみちゃんの足元に、もんちゃんが近付いてきました。
いつものように、こよみちゃんにすりつこうとしたのです。
しかし、こよみちゃんは足元のもんちゃんに気付かず、間違えて尻尾を踏んでしまいました。
もんちゃんは驚いて、思わずこよみちゃんをひっかきました。
こよみちゃんは、わぁわぁと泣き出し、もんちゃんに言いました。
「もう、もんちゃんなんて大嫌い! いなくなっちゃえ!」
それを聞いたもんちゃんは、とぼとぼとどこかへ行ってしまいました。
そしてその日から、もんちゃんはお家に帰ってこなくなりました。
こよみちゃんのパパとママは、大慌て。
迷い猫の貼り紙を作り、名前を呼びながらあちらこちらを探してまわりました。
でも、こよみちゃんは知らん顔。
(もんちゃんなんて、見つからなければいいのに)
こよみちゃんは、もんちゃんがいなくなり、ホッとしていたのです。
でも、それから一週間もすると、こよみちゃんもだんだんもんちゃんの事が心配になってきました。
パパとママと一緒に貼り紙を作ったり、一緒にあちらこちら探してまわったり。
それでも、もんちゃんは帰ってきませんでした。
(こよみがいなくなっちゃえなんて言ったから、もんちゃんは帰ってこないんだ)
こよみちゃんは悲しくなり、ぽろぽろと泣きました。
そんなある日、こよみちゃんがもんちゃんを探していると、後ろからチリンチリンと鈴の音が聞こえてきました。
(もんちゃんだ!)
こよみちゃんは、とっさに振り向きました。
でも、そこには、こよみちゃんと同い年くらいの女の子が立っていました。
女の子は、にこにこと笑いながら、こよみちゃんに近付いてきました。
「あなたは、だれ?」
こよみちゃんは、女の子に言いました。
でも、女の子は答えません。にこにこと笑ったまま、こよみちゃんの服をつかむと、走り出しました。
こよみちゃんはびっくり。
慌ててこよみちゃんも走り出しました。
女の子はとても足が速く、こよみちゃんは何度もころびそうになりました。