閉店後のおもちゃ屋さんで、ぬいぐるみ達がこんな話をしていました。
「次はきっと、僕が選ばれるぞ」
「いいや、きっと僕だ。君みたいなゾウのぬいぐるみより、僕のようなカッコイいライオンのぬいぐるみの方が、人気があるに決まってる」
「いいえ、ゾウよりもライオンよりも、私のような可愛いウサギが早く選ばれるはずよ」
ぬいぐるみ達は、早く人間のお友達の家へ行き、一緒に遊びたいのです。
だから、自分が買われてゆくのを、みんな今か今かと待ち望んでいます。
その中に、ゾウでもライオンでも、ウサギでもない、ヘンテコリンなぬいぐるみがいました。
大きな頭に小さな体、困った猫の様な、何だか情けない顔。
「僕も早く、人間のお友達とたくさん遊びたいなぁ」
そのヘンテコリンなぬいぐるみは、そう呟きました。
しかし、周りのぬいぐるみ達は、それを聞いて大笑い。
「あははっ、君が選ばれるのは、きっと僕らのずっと後だよ」
「そうだよ。君のそのヘンテコリンな顔を見てごらんよ。カッコ良くも、可愛くもないじゃないか」
皆に笑われ、ヘンテコリンなぬいぐるみは、しょんぼり。
でも、きっと優しいお友達の家に行けると、ヘンテコリンなぬいぐるみは信じていました。
次の日、ライオンのぬいぐるみが、お友達の家へと買われてゆきました。
その次の日にはウサギのぬいぐるみが、またその次の日には、ゾウのぬいぐるみが、お友達の家へと買われてゆきました。
仲良しのぬいぐるみが次々と買われてゆき、ヘンテコリンなぬいぐるみは、とうとう一人ぼっちになってしまいました。
(誰も僕を選んでくれない。もしかしたら、僕はずっと、お友達の家には行けないのかな)
ヘンテコリンなぬいぐるみは、とても悲しくなりました。
しかし次の日。一人の女の子が、ヘンテコリンなぬいぐるみの前で立ち止まりました。
そして、彼を抱きかかえると、「この子、すごくかわいい! パパ、こよみ、誕生日のプレゼントは、この子がいい」と、隣にいるパパを見上げました。
こよみちゃんという女の子の家へ行く事になったヘンテコリンなぬいぐるみは、こよみちゃんに「フウモ」という名前をもらいました。
ふもふもして、暖かくて、やわらかいから、フウモ。
その日から、こよみちゃんとフウモは、大の仲良しになりました。
こよみちゃんは幼稚園から帰ると、真っ先にフウモの所に飛んでいきます。
一緒におままごとをし、おぼえたばかりの絵本を読んであげ、その日の出来事を話し、夜は一緒に眠りました。
こよみちゃんは、フウモの事が大好き。
フウモも、こよみちゃんの事が大好きです。
フウモは、毎日が楽しくて仕方ありませんでした。
でも、こよみちゃんが小学生になった頃から、こよみちゃんはあまりフウモと遊ばなくなりました。
こよみちゃんに、たくさんのお友達が出来たからです。
いつの間にかフウモの居場所は、こよみちゃんのベッドから部屋の隅っこになり、フウモは一人ぼっちで眠るようになりました。
(こよみちゃんは、もう僕と遊んでくれないのかな)
フウモは寂しくて、こよみちゃんが眠ったあと、毎晩こっそり泣きました。
そしてある日、こよみちゃんは部屋で転んで、手に持っていたジュースをフウモにこぼしてしまいました。
「あーあ……」
こよみちゃんは、ジュースでびしょびしょになったフウモを抱き上げました。
久しぶりにこよみちゃんに抱っこされたフウモは、とても嬉しくなりました。
でも、こよみちゃんはフウモをママの所に連れていくと、「ママ、フウモ、汚くなっちゃったから、もういらない」とママに渡しました。
そして、そのままお友達と遊びに行ってしまいました。
ママは、フウモをゴミ捨て場に連れていくと、「フウモ、ごめんね」とフウモの頭を撫で、フウモを置いて帰りました。