【第4回】 | マイナビブックス

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コマドリ頭巾

【第4回】

2016.10.05 | 桂南

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「何だよ、その話の振り方は」
伊達が睨みつける。
「伊達が山本先生に一番迷惑をかけたかもしれないな。重箱の隅をつつくような文法の話ばかりして、それを聞いてもらってたんだから」と織田。
笑い声が聞こえてくる。
「田代、ちゃんと進行の準備をしてきたのか」
眉間に皺を寄せそう言うと、伊達は背筋をピシッと伸ばし正座する。深々と頭を下げ話し始めた。
「山本先生。長年に渡りご指導いただき、本当にありがとうございました。今は感謝の気持ちで胸がいっぱいです」
そこで田代が口を挟もうとするが、間髪をいれずに伊達が人差し指を唇に当てた。それを見て田代は口にチャックする仕草をして黙り込む。
「先生は、何度となく言われていました。職員室でも、この店でも。生徒を英語嫌いにしてはいけないと。今でもその言葉が耳の奥に焼き付いて離れません」
山本は頷きながら聞いている。
「その言葉を肝に銘じて教壇に立つようにしてはいるのですが、実際のところ、英語嫌いの生徒の数を増やしているような気がしてなりません。文法の話になると、つい気負いすぎて説明に熱が入ってしまうというか、その……」
言葉に詰まり、頭を掻く。
「伊達先生は文法オタクですからね」
田代がぽつりと一言。
「関係代名詞が伊達の恋人だからな」と冷やかすように真田。
「文法も大切ですよ」
そう言って山本が優しい眼差しで伊達を見つめている。
「こんな僕でも、授業ではできるだけ英語を話すように心がけているんです。拙い発音ですが。でも、気を緩めると、知らないうちに日本語になってるんだよなぁ」
何やら愚痴っぽい口調になり、うなだれている自分に気づき顔を上げ言った。
「そうだ。英語嫌いと言えば、先生、あの話をもう一度聞かせていただけませんか」
「あの話?」

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