【第1回】 | マイナビブックス

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コマドリ頭巾

【第1回】

2016.07.29 | 桂南

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引っ込み思案であがり症、まるで意気地がなく、泣き虫ときている。周りからの視線を避け、極力目立たぬよう行動する。人前で話すのが大の苦手。物心がついた頃からそうだった。
授業中は教師から当てられぬよう下ばかり見ている極めて存在感の薄い生徒だった。それがどういうわけか、周囲の驚きをよそに、英語好きが高じて教職に就いたのである。気がつけば教員生活四十有余年、山本武士は間もなく定年を迎える。
今夜は同僚が送別会を開いてくれるという。今しがた勤務先の高校の正門を出て、歩いて十五分程の居酒屋へ向かう途中である。若手の教員が二人して「先に行ってます」と声をかけ、足早に追い越していく。何か余興でもするつもりなのだろうか。一人は大きな紙袋を持ち、もう一人は筒状に丸めた模造紙を大事そうに抱えている。