【第04回】さらば友よ

「あった。ここから近い場所の空間でだ」
安らぎの庭はいわば死者達のデータの集合住宅団地だ。それぞれの死者が一定の容量の電脳空間を所有し、そこで暮らしている。中には生きてるうちに自分のデータを安らぎの庭にバックアップしておく者もいるくらいだ。しかし、人格と記憶のデータの抽出と、それを安らぎの庭に入れるのには相応の設備と手続きが必要だ。木崎玲子のような女がそうやすやすとできるものではない。大抵の人間は末期に病院の専用設備で行うものだ。そして、木崎玲子はそれをする暇もなく脳を吹き飛ばした。どういうことだ？ 私は口の中が渇いた気がして思わず紅茶に手を出す。もちろん本当に渇いたわけではないが、気分の問題だ。
「これから木崎玲子のいた空間に転移する。たしか公園空間の噴水の近くにいたんだ。もしかしたらデータの痕跡が拾えるかもしれない」