【第1回】今日は、娘の運動会だ | マイナビブックス

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妻と子の明日が、幸せでありますように

【第1回】今日は、娘の運動会だ

2016.08.03 | 岩川大地

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今日は、娘の運動会だ。
幸いなことに天気は晴天で、子供たちの笑顔がはじけるような休日になりそうだと私は思った。
私には咲さんという妻がいて、8歳になった息子風太郎と、6歳になる娘の純架がいる。
おにいちゃんの風太郎は、私譲りで非常に聡明だ。驚いたことに、就学前から簡単な掛け算を理解していたほどである。そしてかけっこも得意なほうで、息子の成長を日々見守るのが実に楽しい。
妹の純架は6歳になったが、まだひらがなとカタカナが完璧ではない。そして純架は、走るのが得意ではないのだ。だから今日の徒競走のことで、私ははらはらとしている。
別に私は娘が頭脳明晰でなくても良いと思っている。それはなにも女の子だから頭が良くなくても、と言う意味ではなくて、風太郎も純架も心を正しくととのえて善を選び、健やかにして、毎日の幸福に感謝をして生きてくれればいいと思っているからだ。
そしてできれば子供たちには訪れる困難の数々を耐え忍んで、眼前の欲の楽しさに溺れず心を修めて、努め行うことのできる人間になってほしいなと親である私は願っている。
それにしても、どうにも娘の純架はおにいちゃんのことがライバルとして気になるらしい。いつだって純架は風太郎を意識して比較しているのだ。
私たちの愛は常に、2人の子供に対して平等に向けているつもりなんだけれどね。
純架は風太郎をことに意識しているからこそ、私と妻の関心が風太郎に注がれているのを感じた時は嫌になっちゃうんだろうなあ。自我が芽生えて、わがままな時期なのもあるだろう。世界の王女様は嫉妬してしまうんだね。
「お母さんお父さん、もっと私のことを見て! もっと褒めて! もっともっと!」と際限がないのだ。
いつまでもかまってちゃんでないことを祈りつつ、私は純架に付き合っている。
前述の通り、私は風太郎ばかりを褒めているつもりはない。ただ風太郎は、大人なのだ。子供とは思えないほどしっかりしているために、そのことに対して褒めずにはいられないのだ。そしてそういう言葉を純架が聞くと、どうしても悔しくて悲しくて辛くて、許せないんだろうね。妹が兄にケンカを吹っ掛けるんだ。
驚いたことに風太郎はそんな純架を、許すのだ。8歳にして、暴力的なほどの嫉妬を許しきる度量の広さ。もちろん私たちが、こんこんと純架の気持ちを説明し、許してあげて、純架の幸せを願えるような子に育ってほしいと言いはしたし、努力もした。
けれども言葉で納得できることじゃない。
そういう意味で、風太郎はずば抜けた才覚を持っている。人を慈しむという心を、8歳にして得たのだ。死の間際になっても、自分しか見えない人間ばかりの世の中で、こうもあっさりと。
それでも風太郎は私たち両親の愛を感じたくて、ついつい困らせてくることもある。たまにはそんなわがままも言ってくるのだ。
そういうときは、優しく、優しくたしなめる。なぜならば風太郎はできる子だから。優れた息子に教育を惜しむつもりはない。きっと吸収して、私より器の大きい男になってくれると思っている。だから、甘やかさない。代わりに努力の過程をとても褒めあげるようにしている。

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