【第2回】秘密の秘密

秘密の秘密

　秘密がない人だと誉められることがある。同じくらい割合で、何でも話してしまいそうだからと警戒されることもある。

　馬鹿にされているのであれば、それはそれとして有りだとも思うが、相手が真剣だと『浅い人だなぁ』と悲しくなる。人はそんなに単純なものではない。そもそも、秘密が何だか分かっていないのだろうな、と推測してしまう。

　本当の秘密なんて、この世の中にそうそうあるもんじゃない。本人が知られたくないという個人の恥部などは、秘密としては思いっ切り低レベルだと私は思う。そういう秘密を大事にする傷つきやすいメルヘンチックな気持ちを馬鹿にする気はないが、人に付き合わせるものではない。

　仕事上の秘密はあると言う人もいるだろう。法治国家の国民として、法に触れる可能性がある分野は個人の枠より影響を受ける人が多いことなどを考えれば重大かも知れないが、守り通すことでしか成立しない秘密は、単なる悪事である可能性もあり邪道な匂いがするのも事実だ。

　本当の秘密は、隠されることも重要だが、公開されたときに起きることの方が何倍も価値があるものだと私は定義している。そういう秘密は、結局、秘密のまま、ごく一部の人の人だけが恩恵を受けて隠され続ける……

　ゴルフは秘密に溢れている。例えば、タイガー・ウッズを考えてみよう。彼が現時点で世界最強のゴルファーであることは間違いないが、その理由は完全には解明できていない。誰もが注目して、その秘密の一端でも掴もうと研究を重ねているが、見当違いな仮説で戸惑わされることばかりが繰り返される。

　それは違うだろう、と反論する人もいるだろうが、それはゴルフ史の不勉強を自ら宣伝するような愚かさを孕んでいる。

　ゴルフレッスンに少し詳しい人であれば、現在のスイング理論の基礎はベン・ホーガンのモダンスイングだということに異を唱える人はいないだろう。ホーガンも、世界最強のゴルファーだった時期があったことは記録を確認するまでもない。

　モダンゴルフは、競技からの引退を決めたホーガンが雑誌社に売った秘密である。スイングプレーン、体の各部の使い方などを当時としては破格な金額と引き替えに公開したのだ。それが、モダンゴルフのベースである。

　もし、ホーガンが秘密を公開しなかったら……　ゴルフ史は根本的に変わっていだろう。

　まさに秘密の話である。

　ベン・ホーガンがライバルたちと競うことがなくなるまで守り続けた秘密は、それ以前にも似たような理論がなかったわけではないが、その完成度と万民に通じるベースとしての分かりやすさで飛び抜けて優れていた。だから、約半世紀過ぎても、その輝きを失わないのである。

　タイガーにもそういう秘密があるのかも知れない。

　繰り返すが、ゴルフは秘密に溢れている。何だか分からないけど良いゴルフをする人には、大なり小なり秘密がある。ベン・ホーガンほど普遍性は高くなくとも、実践できているものは秘密に支えられている部分があるものだ。

　秘密を持っていながら、それに気が付いていない人もいる。秘密とは別のことを秘密だと思っている人もいる。いずれも小さな秘密だ。

　秘密を守れないと悪評高い私ですら、ゴルフに関しては人に話さない秘密を持っている。暗号化したり、ヒントを出したりすることはあるが、ダイレクトには公開しない。だって、それが秘密のルールだからだ。

　人づてに伝わった来たものや、複数の人と解明したものは、ゴルフの場合は秘密ではない。みんなで共有するのが正しい。あくまでも、自分のゴルフについての秘密だけが本物なのである。

　秘密の話をしようと思っていたのだが、秘密の定義の話で終わってしまいそうである。この号で１６９９号、来週からは１７００号台に突入である。まだまだ秘密が一杯のゴルフの謎解きをやり続けていけることは幸せである。

　進んでいく号数と、秘密の解明が比例していないのは残念でもある反面、そういう飽きさせてくれないゴルフを頼もしくも思う。

　ちなみに、秘密は持ち続けて熟成させて、時には小出しに見せて公開した際の反応を確認したりすることで、質は向上すると言われている。どうせなら、良質な秘密でゴルフを楽しみたいものである。

（２００８年１月18日）