【第2回】第一場「さよなら、ゴーインジャー」 ―（1）

第一場「さよなら、ゴーインジャー」

　

とある地方にできた巨大レジャー施設「マルゴツランド」。オープニングセレモニーを翌日に控え、急遽建てられたテントは乱雑な作り。（舞台下手面・柱前部分にはテント内とは別のアクティングスペースがある。）テーブルは上手下手にそれぞれ。パイプ椅子が数脚。ブラックのスーツがハンガーで掛けられており、ブルーのマスクが上手テーブル上に置かれている。リハーサルを控えたチーム一同が、片付け等をしている。ゴウは静かにスーツの欠損部分を手縫いしている。外からは作業音や遊園地らしい音楽等が時折聞こえてくる。

　

葵山　　　　　（蹴りやヒジ打ちを入れる練習をしながら）シュッ、シュッ。……あ、違うな、レッドがこう来て、こう（ジャンプする動き）。あ、もう一回。こう来て、こう。で、こう。からの、シルバーきっかけの、ブルーウイーング、と。……よし。

芦田　　　　　ご満足頂けました？

ゲン　　　　　あ～らだだだ、（膝が痛い）

葵山　　　　　いよいよですね。

ゴウ　　　　　おい、出ハケと立ち位置の確認、ちゃんとやっとけよ。

葵山　　　　　はい！

あゆみ　　　　ステージリハは何時からでしたっけ？

芦田　　　　　今１７時だから、もうちょいな感じっすかね。

あゆみ　　　　私もそろそろ準備しなきゃ！

芦田　　　　　生着替え、ヒュウ～。

ゲン　　　　　（あゆみを隠すように立ち）俺がこうしててやるよ。

あゆみ　　　　大丈夫です。

ゲン　　　　　あそ。

葵山　　　　　芦田くん。ブルーウイングの羽音のタイミングが、日によってまちまちなので今一度確認を。

芦田　　　　　本番まであと一日あるんですよ。そうピリピリしない！

葵山　　　　　リハは本番と同じ気持ちでやらないと意味がないでしょう！

芦田　　　　　アツいハートの持ち主だねしかし！

葵山　　　　　そんなこと言って、こないだだって、ブルーの名乗りの効果音が動きとズレたじゃないですか。

　

芦田、耳を塞ぎ、

　

芦田　　　　　あーあー。聞こえない。

葵山　　　　　ちょっと！

ゲン・あゆみ　（耳を塞ぎ）あーあー。

葵山　　　　　何してるんですか！

芦田　　　　　お前が音に合わせろし！

　

葵山と芦田、上手奥で名乗りのタイミング合わせ。

　

あゆみ　　　　直りました？

ゴウ　　　　　（スーツに糸を通しながら）楽勝よ！

あゆみ　　　　ゴウさんってほんと器用ですね。

ゴウ　　　　　ヒーローショーなんてさ、全部手作りなんだから。こういうのも自分でやんねえとな。

ゲン　　　　　レッドは特にボロボロだねえ。

ゴウ　　　　　何だよ。俺が雑に扱ってるみたいじゃねえか。（笑って）

あゆみ　　　　何か手伝いますか。

ゴウ　　　　　いいよ。好きでやってんだから！

　

レッドのスーツを見つめる。

　

あゆみ　　　　明日で最後ですね………ゴーインジャー。

ゴウ　　　　　……こいつも、一年間、戦ってきてくれたからな。

ゲン　　　　　毎年この時期は寂しいねえ。

　

手をぱんと叩き、

　

ゴウ　　　　　感傷にふけってる場合じゃないぞ。ピンクのケツも縫ってやろうか？

あゆみ　　　　やぶけてませんよ！

　

子どもを抱いた千菜が入ってくる。

　

芦田　　　　　お疲れ様でーす。

ゲン　　　　　どうだって？

千菜　　　　　託児所があるからそこ使っていいって。

ゲン　　　　　ならよかったな。

あゆみ　　　　本番中は誰も手が空いてないもんね。

ゴウ　　　　　無茶すんなあ、千菜。

千菜　　　　　ゴーインジャーもこれで終わりだもん。最後ぐらいは無茶してでもやりたいよ。

芦田　　　　　玉のような赤ちゃん、ヒュウ～。名前は何ていうんすか。

千菜　　　　　千に儚いって書いて、ちわ。

芦田　　　　　ちわちゃんか、ヒュウ～。（あやすように）鼻眼鏡！

　

千菜、芦田の頭をはたく。

　

ゴウ　　　　　お～い、元気に育ってるか～。

　

お子の声「キャッキャ」。

　

芦田　　　　　早く人間になりたいって言ってますよ。

千菜　　　　　言ってねえよ人間だよ。

あゆみ　　　　千菜、体調は？

千菜　　　　　バッチリ！　あゆみは心配しすぎな。毎日筋トレしてっから。この日のために！

ゴウ　　　　　やっぱイエローはお前じゃないとな。

千菜　　　　　あゆみのピンクとは初共演だよな。よろしく頼むぜ！

あゆみ　　　　うん！　……そういえば、新しい戦隊ショーのレッド、葵山くんって聞いたんですけど、ほんとですか！

千菜　　　　　え、来週からの？　やったじゃん葵山。

葵山　　　　　今はゴーインブルーに集中してますんで。

千菜　　　　　お前がレッドか。

葵山　　　　　「（クールに）磁界戦隊…ランスウィンガー……」。今日、社長夫人が直々にいらして、僕のゴーインブルーを見てから正式に決定するそうです。

あゆみ　　　　オーディションだ。

ゲン　　　　　お前、ショーのあとの事務所反省会も、毎回行ってたもんな。

あゆみ　　　　そういうとこが評価されたんですね。

葵山　　　　　（芦田に）だからそこのスタッフさん！　しょうもないミスだけはしないでね！

芦田　　　　　俺のこの手に……彼の未来が………。

ゲン　　　　　ゴーインブルーといえば、来るんじゃなかったっけ、今日。本物。

芦田　　　　　て聞いてますけど。

葵山　　　　　………本物って？

あゆみ　　　　知らないんですか、明日、ショーのあと、素顔のヒーロートークショー。

葵山　　　　　素顔のヒーロー。

芦田　　　　　本物のゴーインブルーが来るんだよ！

葵山　　　　　え。

　

ゴーインジャーロボのスーツを着た飛谷遥太が、鵯未（ヒヨミ）と共に入ってくる。

　

ヒヨミ　　　　ここが楽屋です。

遥太　　　　　おはようございまーす。

葵山　　　　　え……、本物のゴーインブルーって……、（聞くが誰の耳にも入っていない）

ゲン　　　　　おはようじゃないよ、お前。リハ始まるぞ。

遥太　　　　　だってママの車が渋滞にハマっちゃって……。でもこれ（ロボスーツ）、やる気の表れ。

葵山　　　　　（見かねて）おいちょっと君、遥太君といったか、こっちへ。

遥太　　　　　先輩、おはようございます！

葵山　　　　　え、君、これ明日のショーで使う、ゴーインジャーロボのスーツだよね。

遥太　　　　　ゴーインフラッシュ！

葵山　　　　　フラッシュじゃないよ、君何、これで来たの。

遥太　　　　　パーキングエリアでいっぱい写真撮られちゃった。

葵山　　　　　当然だよね、こんな非日常が飛び込んできたら。だいたい君みたいなキャリアの人間がゴーインジャーロボなんて大役を任せられるなんてね、あり得ないんだからね。多くの人間は長い下積みを経て、

遥太　　　　　（電話が鳴る）あ、ママだ！　何、ママ。

葵山　　　　　おのれ。

あゆみ　　　　ママって……？

千菜　　　　　社長夫人の微美さんだよ。このバカ息子の母親。

芦田　　　　　お母様、飛谷・フランソワ・微美さんっていうんすよ。いかにも金持ってそうな名前でしょ？

遥太　　　　　（一同に）ねえねえ、まだ来てないですよね。本物のゴーインブルーの人。

ゲン　　　　　来てないな。

葵山　　　　　あの、本物のゴーインブルーって、

遥太　　　　　（電話口に）来てないみたい。……うん、まだみんな、ごろごろしてるよー。

葵山　　　　　……し、て、な、い、よッ！

芦田　　　　　（ヒヨミに）瀧さんは明日の朝いちで間に合うんすよね。

ヒヨミ　　　　うん、ブラック役の瀧さんは、今日は別の現場があるっていうから、明日の朝いちで、って。さっき事務所に電話したときに瀧さん本人がそう言ってたから、間違いない！

ゲン　　　　　じゃあ今日のリハはブラックだけエアーだな。

ゴウ　　　　　おいお前ら、スーツはシワにならねえように、ハンガー掛けて、小物も片付けとけよ。くっちゃべってねえでさ。（退場しようとし）

ゲン　　　　　どこ行くんだ？

ゴウ　　　　　お花摘んでくるだけだよ。

　

ゴウ、レッドスーツを掛け、退場。同時に薬袋も持って出ていく。

葵山、千菜、あゆみも各色のスーツを取り出し、同じようにハンガーに掛ける。

テント内に干された５色のゴーインジャースーツ。

　

ヒヨミ　　　　（一同のスーツ姿を見て）うわぁ、ゴーインジャーだぁ……。

千菜　　　　　ヒヨミは明日が初ステージなんだっけ？

ヒヨミ　　　　そそそ、そうなんで、で、で、す。

千菜　　　　　おめでとう、ゴーインシルバー。

遥太　　　　　失敗をおそれる必要はないからね。思いっ切りやろ。小さくまとまることが一番よくないからさ。

ゲン　　　　　お前が言うとイラっとするな。……明日で終わりかあ。

千菜　　　　　一年間ありがとな。ゴーインジャー。

あゆみ　　　　また着る日が来るんですかね？

芦田　　　　　事務所の倉庫行き。

葵山　　　　　君はすぐにそうやって現実的な話をする。ゴーインジャーは、永遠に、不滅です。

芦田　　　　　でも気持ちはすでに？

葵山　　　　　灼熱の大腿筋！　レッドランラン！

千菜　　　　　ノリノリじゃねえかよ。

ヒヨミ　　　　見損ないました葵山さん！

葵山　　　　　冗談ですよぉ！

ヒヨミ　　　　あ、いけない、私も早く着替えなきゃあ。

芦田　　　　　生着替え、ヒュウ～。

あゆみ　　　　それ毎回やんなきゃいけないやつなんですか。

ゲン　　　　　着替え覗いたら張り倒すからな。

芦田　　　　　……おー怖。

千菜　　　　　さすが妹には甘いね、ゲンさん。

ゲン　　　　　んなこたない。

あゆみ　　　　でも全然似てないですよね。

ゲン　　　　　そう？　ほら、似てない？　目のあたりとか。

芦田　　　　　ああたしかに似て……ないよゲンさんちっとも。