【第3回】第一場「仮面のないヒーロー」 ―(2) | マイナビブックス

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ヒーロー ア ゴーゴー!~デパート屋上編~ 上演台本

【第3回】第一場「仮面のないヒーロー」 ―(2)

2016.08.29 | 鈴木智晴

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遥太(戦闘員の格好をしている)、瀧が帰ってくる。

 

瀧      暑ちいな、ここ。(汗を拭きながら)

葵山     あ、瀧さん。お疲れ様です。

瀧      ゴウさん、ここって雨降ったら中止ですよね。

ゴウ     降りそうなのか。

瀧      (脚を指し)さっきからズキズキするんですよ。

芦田     古傷。

ゲン     山の向こうにでっかい雨雲も来てるし、もしかしたら、もしかするぞ。

ゴウ     さっきまで晴れてたのに。

芦田     山の天気ヒュウ~。

ゲン     変わりやすいヒュウ~。

遥太     ヒュウ~。 (テーブルの上にある食券を見つけ)これ食堂のやつですよね。メシ、行っちゃいません?

瀧      いいね。

ゲン     結局、朝メシも食い損ねたしな。

葵山     (遥太の戦闘員姿を見て)え、その格好で。

遥太     ダメでした?

葵山     ダメでしょ、怪人が、え、食堂行くんですよね。本番前に。衣裳着て。役者道にもとる行為ですよ。

芦田     あの遥太って奴、うちの事務所の社長の息子さんなんすよ。だから誰もなんも言えねえの。

小手川    そうだったんですか。

芦田     ボンボンだかんね!

葵山     遥太君、キミね、お父さんが何者かは知らないが、一度きつくお灸をすえておかないといけないようだね。まず役者というのは、本番前には必ず精神の……、

 

ゴウ、テーブル下に置いた大量の買い物袋を取り出す。

 

ゴウ     どっこいせっと。

葵山     買い物だと!

ゴウ     甥っ子がさ、こういうの好きだからさ。

葵山     「さ」じゃないですよ、「さ」じゃ。ただでさえまだ後半の合わせができてないっていうのに。

遥太     あ、リバーシブルパジャマ! これ持ってた!

ゴウ     かわいいよね、これ!

葵山     待て、ハジケている場合か。キミにはまだ言いたいことがあるんだ。

ゴウ     お前、早替え、やっとかなくていいのかよ。

ゲン     間に合わなかったらウケるな。

葵山     ウケませんって! そんなこと、させじ魂親ゆずりですよ。

ゲン     そうジタバタするなって。

葵山     ジタバタしてない人にジタバタしてる人の気持ちなんて分かりっこないんですよ!

ゴウ     (早替えの動きで)ちゃんと素振りしとけよ。

葵山     早替えのですか! 早替えの素振りですか。一人で? それ宇宙で三番目ぐらいに虚しいやつじゃないですか。

瀧      背中のチャック下ろすの手伝ってやろうか。

葵山     ……なんか、いいです。

芦田     ヒュ~。

瀧      行くぞ。

ゲン     じゃ、俺ら先にメシ行ってくるから。

ゴウ     あいよ。

 

ゲン、遥太、瀧、芦田、退場。

 

葵山     本番前に腹に物を入れるだなんて考えられない。

ゴウ     お前はいちいちうるせえな。人それぞれだろ。あ、そだ、こてっちゃん。

小手川    小手川です。

ゴウ     いいじゃん、こてっちゃんでさ。もう仲間だろ俺達! 桃瀬の奴、繋がった?

小手川    それが、まだなんです。

ゴウ     参ったな……。

千菜     どうしようか。

 

一同、ピンクのスーツを注視。

 

小手川    もう一回連絡してみます?

ゴウ     ごめんな、手伝わせちゃって。頼む!

 

小手川、退場。

 

ゴウ     ……ま、何とかなるだろ。おう、千菜。

千菜     何。

ゴウ     お前、今日動き悪いな。調子良くないのか?

千菜     あ、いや、ううん大丈夫。

 

デパート支配人、屋柄モリオがぬっと顔を出す。

 

モリオ    ヒーローの皆さあん。

葵山     おっと、(驚き)

モリオ    今、お邪魔でした?

ゴウ     大丈夫ですよ。

モリオ    よかったあ! 秘密の作戦会議の真っ最中とかだったら、私完全に出トチリですもんね。危うい危うい、ふう。……申し遅れました。私、当「マルゴツ百貨店」の支配人をやっております、屋柄モリオと申します。

ゴウ     ああ、このたびは、どうもです! アクションチーム「とぶらやプロ5班」でチーフやってます、廣田ゴウっていいます。

モリオ    これはこれは遠路はるばるお越し頂き、ありがとうございます、ホントにもう! 本日はですね、我が街に初めてヒーローの方がいらっしゃるぞということで盛大にお迎えしなくてはと、もう気合い満タンでございます。街の子ども達も、たいそう楽しみにしていて、ここ数日は街をあげてのお祭り騒ぎですよ!

千菜     そうなんだ。

モリオ    いいですねえ! ヒーローのアジトって感じで。(周囲を見渡し、テントのバトンに干してあるゴーインジャーのスーツを見つけ)……あ。早速。早速ですか。私知ってますよ、ゴーインブラック。衝撃戦隊ゴーインジャー。この日のために勉強して参りましたから。(お面を見つけ)あ、ゴーインレッドのお面だ。これって物販用の?

ゴウ     そうですね。

モリオ    いいですか、ちょっと。(付けてみる)コーホー、コーホー。ワレワレハ、ヒーローダ。

葵山     何やってんですか。

モリオ    楽しいですね。(干してあるスーツに興味を持ち)……触らせて頂いても?

ゴウ     ええ、まあ、大丈夫ですよ。

 

モリオ、じりじりと近寄り、スーツ(ブラック)を手に取る。

 

モリオ    くっさッ! ……くっさッ! だこれ!

千菜     くっせ。

モリオ    ……これは、噂には聞いていましたがなんという納豆臭。でも、これだけの汗をかいて、日々この星を護ってくれているんですもんね。ありがたや、ありがたや。

葵山     なんかこの人、さっきから一人で楽しそうですね。

モリオ    そうだ、ご紹介が遅れました。(袖に向かって)オマエ。

 

デパートオーナー、屋柄シゲミ、入ってくる。

スーツの胸にはドリルが付いている。

 

シゲミ    アナタ。先程からお騒がせしてしまって、申し訳ございません。当百貨店のオーナーを任されております、屋柄シゲミと申します。

ゴウ     あ、ども。(胸のドリルが気になる)

シゲミ    普段はモリオと共にここをきりもりしております。

モリオ    こらこら、きりもりとかダメだって。共同運営しております。

シゲミ    ホールディングスしております。諸々不手際等ございますかも知れませんが、最後まで何卒宜しくお願い致します。

葵山     よろしくお願いします。

ゴウ     え、はい、ん、えっと、その胸は。

モリオ    ちょっと! 女の人の胸ばっか見て! このエロヒーロー!

ゴウ     いや、

モリオ    エロ THE ヒーロー!

ゴウ     ………。

シゲミ    (少しだけ照れて)……ドリルです。

千菜     ドリルであってたんだ。

葵山     一体なぜ誰が何のためにドリルを胸に。

モリオ    それは私のほうからご説明させて頂きたく……。えー、先ほどもお伝えしましたとおり、今回の「衝撃戦隊ゴーインジャーショー」は、この街に初めてヒーローがやってくるぞ、ということでですね、これはこちらからの提案なのですが、こほん、じつはですね、本日のショーに、うちのオーナーを出演させてはもらえませんでしょうかと。

一同     は?

モリオ    ご覧のとおり、バケモノ役で。

一同     は??

モリオ    この一週間、二人であれやこれや考えまして。やはりこの街でショーをやるなら、ショーを盛り上げる意味でも、この街オリジナルの怪人がいたほうが子ども達も喜ぶのではないかと。……で、このように衣裳を作成しましてですね、我がマルゴツ百貨店のオリジナル怪人「ドリル姉さん」というのを開発、あいや、設定的には悪の組織によって改造されてしまいまして、

ゴウ     こちらの方が?

モリオ    はい。

葵山     はい、て。

千菜     そんなこと急に言われても。

シゲミ    必殺技はマルゴツボンバーと、(ちらっと指先を見て)ビームです。

千菜     ドリルは使わないんですね。

モリオ    いかがでしょうかと。

シゲミ    何でもやらせて頂きます。ウイ~ン、ガシャン、

ゴウ     いやそうじゃなくて。せっかくのご提案を申し訳ないんですけども、

シゲミ    マルゴツボンバー!

モリオ    「ホントは悲しい過去がある」という設定なんです。

ゴウ     今日のショーなんですけど、出るキャラとか台詞とか、全部決まっちゃってるんですよね。

モリオ    え?

シゲミ    マルゴ、え?

葵山     これがその音源です。こんな感じに。

 

葵山、機材をいじる。音声が流れる。

 

ヤベーラ   「く、口の減らないピンクのブタめ! ならばこうだ。(くすぐる)こちょこちょこちょ、」

ピンク    「ちょ、やめ、」

ヤベーラ   「こちょこちょこちょ、」

 

ゴウ     てわけでね、すいませんが!

モリオ    何のシーンですか今の?

シゲミ    ……。(パコンパコンと若干寂しそうにドリルを外す)

モリオ    オマエ……。

千菜     ……何だか悪いことしちゃった気分。

葵山     最後にビームだけ出してってもらって大丈夫ですよ。

モリオ    仕方がないね……。すみません、お忙しい中、余計なことを言ってしまって。(ガッツポーズを作り)では皆さん、レッツ、ゴーイン! 失礼しました。

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