【第2回】第一場「仮面のないヒーロー」 ―(1) | マイナビブックス

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ヒーロー ア ゴーゴー!~デパート屋上編~ 上演台本

【第2回】第一場「仮面のないヒーロー」 ―(1)

2016.08.10 | 鈴木智晴

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第一場「仮面のないヒーロー」

 

舞台中央にたたずむ一人の少年(星人)が、うっすらと明かりに照らされる。

(劇中太字(ゴシック体)は録音音声)

 

声      ……あれが地球か。見えるな。

少年     うん。

声      美しい星よのう。

少年     とってもキレイ。

声      欲しいか、青く輝くあの星が。

少年     ………欲しい。

声      そうか……ならば………。

 

×  ×  ×

場所は古びたデパート「マルゴツ百貨店」屋上の片隅にある仮設テント。

舞台下手奥が出ハケ、舞台上手奥に簡易テーブルとイス数脚。

無造作にバトンが組まれており、出演者の衣裳やタオル等が掛けられたりしている。

 

ゴウ     (ピンクのスーツを持って)……仮に、ここだったとして。

千菜     イエローここでしょ。

ゲン     (やや上手側)そしたらヤベーラ様はこの辺かな。

 

ピンクのスーツを手に、シーンの立ち位置をあれやこれやと確認している一同。

葵山がイスの背もたれにピンクのスーツを掛ける。

 

葵山     分かりやすく、ここにしましょう。

ゴウ     いいね。見えてきた、見えてきた。

ゲン     ヤベーラ様はここか。

千菜     (小手川に立ち位置を指示)じゃ、MC、ここな。

小手川    う、うん……。

葵山     いきますよ。あ、どうやるんだろ、これ……。

 

葵山、音響のスイッチをオン。

ショー音声とBGMが流れる。

 

レッド    「(音声、途中から)……とどめだ! ゴーイン、ナッコォォォ、」

ブルー    「いかん、ヤツの手に握られているあのスイッチは!」

ヤベーラ   「喰らえ、テクノモリポノスガス!」

 

SE「プシューッ」

 

レッド    「ぐわっ!」

ブラック   「これは!」

イエロー   「このガスを……吸ってはダメよ」

ピンク    「ゲホゲホ」

ヤベーラ   「宇宙に広がる大銀河……、これら全てを掌握するのが我らがショーキョック様の野望! 倒れるがいい、ゴーインジャー」

ピンク    「ヤベーラ、あんたは騙されているんだぞ! ショーキョックに!」

イエロー   「地球の平和は私達が守るんだからぁ」

ブラック   「愛する地球は俺たちのもんだ」

レッド    「みんな、負けるな」

ヤベーラ   「大人しく地球を渡しておれば、ここまでせずとも良かったのだ」

レッド    「こしゃくな!」

ヤベーラ   「45億年の歴史に幕を閉じるがいい。さらば地球、さらばゴーインジャー!」

 

小手川    ……。

 

葵山、もう一度スイッチを押す。

 

レッド    「こしゃくな!」

ヤベーラ   「45億年の歴史に幕を閉じるがいい。さらば地球、さらばゴーインジャー!」

 

小手川    えっと、

 

ヤベーラ   「45億年の歴史に幕を閉じるがいい。さらば地球、さらばゴーインジャー!」

 

千菜     ほら、

ゲン     ……ここ、ここ。今んとこだよ。

小手川    あ。

ゴウ     (お子の声で)ゴーインジャー。

小手川    そっか。……もっと大きな声でゴーインジャーを応援してあげて!

葵山・千菜  ゴーインジャー。

小手川    まだまだ足りないぞー。ゴーインジャーにパワーを!

一同     ゴーインジャー!

小手川    もっともっと。もっとだよ、みんな。全然足りない。全然!

葵山     ……いやいや。

千菜     こういうのはだいたい3回ぐらいでオッケイだから。

小手川    そうなの?

ゲン     あんまやりすぎても、お子たち、飽きちゃうからね。

小手川    そうなんだ。

ゴウ     大丈夫、こてっちゃん?

小手川    はぁ……。

千菜     ナーバスになりすぎだろ。

小手川    だってミスったら千菜の顔に泥塗ることになるよ。

千菜     ならんならん。いらんわ、その重いやつ。そもそも人手がいないからやってもらうってだけだし。ちょちょーいと盛り上げてくれりゃいいから。

小手川    分かった、全力でいく。

千菜     聞いてんのか人の話。

葵山     今日は千菜さんの紹介で来てもらってるんですから、そんな気負わずに、期待だけは裏切らないでいてくれたら、それで大丈夫ですよ。

小手川    その言葉、余計プレッシャーなんですけど……。……客振りは3回まで、と。

葵山     お二人は幼なじみなんでしたっけ。

千菜     小学校からのな。

葵山     おキレイですよね、小手川さん。背も高いし性格もおだやかだし。まさに月とスッポン。どんな思春期の相違でここまでの差が……、

 

千菜、葵山のどてっ腹に鋭いミドルキック(寸止め)。

 

千菜     スッポンが好きなのもいるだろうが。

葵山     僕はスッポンが大好きです。

小手川    千菜、やっぱり私向いてないよ。

千菜     楽しむつもりでやればいいって。楽しいぜ、ヒーローショー!

小手川    かな、ありがと!

 

テントの外からは百々澤市長の挨拶が聞こえてきている。

 

ゴウ     これは。

ゲン     イベント開会の挨拶らしいよ。市長さんの。

小手川    (力んで)力入ってるね!

千菜     あゆみは力入れなくていいんだよ。

小手川    あう……。

 

ゲン、イスに掛けたピンクスーツ相手に、くすぐる仕草。

 

ゲン     こちょこちょ、こちょ、

小手川    ……。

ゲン     こちょちょ、

小手川    今は何のシーンを練習されてるんですか?

千菜     後半のピンクがショーキョックにさらわれてヤベーラ様にくすぐられてるシーンだよ。

小手川    どんな展開。

 

音響PAの芦田、だるそうに入ってくる。

 

芦田     挨拶、長っげ。これいつまで続くの。

葵山     (動きの確認をしながら)ショーは12時なんで、ぼちぼちじゃないかな。

千菜     あれまだ本題入ってないよね。つかみだよね。

芦田     ダダ滑りヒュウ~。

葵山     あ、そうだ、芦田くん。キミに一つ確認が……。

芦田     なすか。(何ですか)

葵山     ずっと気になってたんですけど、ステージの脇に、あのでかい丸いやつあるじゃないですか。

芦田     タンクだね。

葵山     タンクなんですけど、あれ、どきませんかね。

芦田     はい?

千菜     タンクはどかないでしょ、タンクだもん。

葵山     (ショー台本を出し)リハやって思ったんですけど、僕、前半パートに早替えがあるんですよ。

小手川    早替え、

ゴウ     戦闘員からブルーな。

小手川    あ、早着替えのこと。

芦田     (小手川に)人手足りてないんで!

葵山     早替えするならここ(楽屋)ですよね。でも、ステージからここまでのストロークにあのタンクがあるおかげで、僕、客席後方を信じられない速度でダッシュしなくてはいけないんですね。これではブルーの役作りに影響が出てしまうかと……。

千菜     繊細か。

芦田     待て、まだあれがタンクと決まったわけじゃない。

葵山     タンクですよあれは。(小手川に)タンクですよね。

小手川    タンクかな。

葵山     タンクなんです。図面にもタンクって書いてある!

小手川    タンクでした。

千菜     気合いで着替えろ!

葵山     気合いで! ……まったく分かってない。舞台に立つということは一人の人間の人生を背負うということなんですよ。そもそもブルーの上に戦闘員のスーツを着ること自体、僕の中のリアリティに反するというのに、その格好で客席後方をダッシュしてる姿を見られるなんて役者としての恥ですよ。それにあのタンク、

芦田     (出ハケまで行き、確認)あれタンクじゃねぇぞ……。

葵山     え。

芦田     このデパートの核(コア)かなんかじゃね?

小手川    コアかなんか。

葵山     コアだとしたら余計迂回しなきゃでしょう! 触れちゃダメそうでしょう!

ゴウ     あれを壊さない限りこのデパートは何度でも再生するかもな。

葵山     ……。

千菜     (笑って)いざって時は着替えながら出ちゃえばいいじゃん。

葵山     いざっていつですか、隕石でも落ちてきた時ですか。だからあのタンク、

芦田     タンクタンク、またタンクだ! めんどくせー。(小手川に)いるんすよ、こういう「自分大変アピール」してくる奴。

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