【第3回】ラブストーリーは突然に | マイナビブックス

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ゴルフプラネット 第30巻

【第3回】ラブストーリーは突然に

2016.04.08 | 篠原嗣典

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ラブストーリーは突然に

 

 例えば、恋した瞬間を切り取るのであれば詩人の出番である。

 

 恋してしまうのは理屈ではない。ただ、何かが確実に変わる心の化学反応は、奇跡みたいなもので、再現性もなければ、証明も出来ない。

 

 恋の始まりを切り取って楽しめるのは、そこに物語の断片を感じられるからで、物語がない恋など恋とは呼べない。顕微鏡で細胞を眺めても、その人物の欠片も理解できないことと同じだ。細胞ではその人の名前すら分からない。

 

 恋の話には駄作はない。恋したフリをしても、話をすればすぐに見破られてしまうから怖い。

 

 表現なんてどうでも良い。登場人物とストーリーさえちゃんとしていれば、ラブストーリーは成立するものである。事実は小説よりも奇なり、というが、ドラマのような恋がしたいなんて言っている人生は本当に不幸である。ドラマなんて作り物だと馬鹿に出来るラブストーリーを3回は体験する権利は、誰でも持っていると賢者は口を揃えている。

 

 権利を行使しない生き方を否定はしないが、ラブストーリーについては最低1回は行使すべきだ。

 

 作り物と本物を見極める目は、実体験を通して初めて機能するもので、どんな知識もそれには敵わないからである。

 

 ゴルフコースを評価するのも、恋の話によく似ている。

 

 一瞬の出会いを言葉で飾る詩人のような評価なら、テクニックを上げればある程度までは出来るだろう。でも、それには限界がある。例えば、そういう評価なら18ホールでも、12ホールでも、6ホールでも同じように出来るからだ。瞬間を切り取るのは詩人の仕事である。

 

 惚れた異性を追いかけるようにして、一つのゴルフコースに通い詰めた経験があれば、それはそれだけで立派な物語である。

 

 コースには色々な顔があること、角度によって表情が違うこと、体を合わせてみなければ分からないことも意外に多いこと、時間を掛けないと分からないこともあること……

 

 詩人のような評価なら、表紙の写真に使うような作り笑顔を相手に短い時間の会話だけで十分かも知れない。でも、そんな薄っぺらいものでは満足できないと思う人もいる。特に、その相手に興味があり、深く知りたいと欲すれば尚更だ。

 

 コースは付き合う相手によっても、その姿や態度を変えるものだ。だから、人の話を聞くのも楽しいのである。自分が知らないことを聞かされて、驚いたり、ときには、嫉妬したり…… 自分だけしか知らないそのコースの魅力を独占していることを秘かに確認したりも出来る。

 

 出来れば、惚れたコースの数だけ物語を語れるようになりたいと、私は常々思っている。それも出し惜しみをしても、十分にお釣りが来るほどのボリュームで……

 

 最低でも一つの物語を語れなければ、本当の好みなど出てこないと私は思っているので、コースの好みの話は半分に聞く。

 

 本当の恋は片想いだ。相思相愛は片想いのぶつかり合いであってこそ熱いのである。一方的に惚れて、惚れまくっても、コースは迷惑がることはない。相思相愛には、なかなかなれはしないが、もっと相手を知りたいという欲求を満たすのは、誰にでも出来るのである。そういう経験の中で、本当の好みは浮き出てくる。

 

 年に1コースというのは現在の私では、時間的にも、経済的にも難しいかもしれないが、恋多き男として色々なコースを謳歌したいという気持ちはビンビンである。

 

 恋することを恐れてはならない。恋しなければ見えないことや感じられないことがあるからだ。

 

 ゴルファーは、元々コースに恋する生き物なのである。自慢のラブストリーを語り合おう。

(2007年1月24日)

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