【第5回】手話で謝りたくて | マイナビブックス

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南森さん(53歳)/愛知県在住/木村鉄道での役職:写真担当/入社:2008年
高宮さん(午年生まれのあばれ馬)/大阪府/木村鉄道での役職:平社員/入社:2007年
 
今日もハイテンションでファンの方とお話するぞ~!! と、最大限の笑顔で「こんにちは!」と声をかけると…
 
「初めまして 私 あなたのファンです
私 耳が聞こえません 筆談お願いします」
 
と書かれたノートを差し出されました。
その瞬間、後悔した出来事を思い出したんです。
 
それは2007年のことです。「木村裕子バースデーイベント」と題し、京都府御陵駅と滋賀県浜大津駅を結ぶ京阪電車京津線で列車を貸切り、車内でお誕生日会をしよう! というファンイベントを行いました。その出発前にみんなで車庫見学をしていた時でした。
 
私「こんにちは、初めましてですよね?」
?さん「……」
私「俳優の柳楽優弥くんに似てますね! 一重の男性、好きなんです♪」
?さん「……」
 
その直後、彼は聴覚障害者と知りました。人生で初めて聴覚障害者の方と接した私は突然のことに戸惑ってしまい、今の話をどう伝えていいかすらわからず、笑顔でやり過ごしてその場を離れてしまいました。イベント終了後に筆談で伝えればよかったと気付いたもののもう遅い。次来てくれた時に謝ろうと思ったのですが、それから彼と会うことはありませんでした。
 
その後悔から、今回はすぐに筆談で対応。そこから南森さんは頻繁にイベントへ来てくれるようになりました。でも筆談には時間がかかります。サイン会も握手会も一人数十秒から1分、長くても2分程度です。筆談は一言二言くらいしか話せません。
そうだ! 私でも手話って覚えられるのかな…? と、ネットで挨拶の手話を検索してみました。
 
それからしばらく経った日のステージ。「あっ! 南森さんが今日来てる!」と舞台上で確認し、いよいよ物販タイムです。内心ドキドキそわそわしているうちに、南森さんの順番が来ました。
 
私「こんにちは。ありがとう」
 
ネットで調べ、見よう見まねで覚えた手話で恐る恐る伝えると、南森さんはとても驚いた顔をした後、満面の笑みを返してくれたんです。ああ、こんな簡単なことだったんだ! 私は何を怖がっていたんだろう。もっともっと手話を覚えたい。そしてまた驚かせちゃおう!
それから手話のテキストを買い、手話サークルにも通って猛勉強を始めました。南森さんに会った時は、普段覚えたことを披露してテストをしてもらいます。そして半年後、約600単語を覚えて挑んだ全国手話検定で4級に合格しました。あれから2年、今ではゆっくりですが日常会話が話せるレベルになりました。
 
たどたどしかった手話も、ちょっとだけ板に付いてきたある日のイベント。あの時の彼が突然現れたんです。それは6年ぶりの再会でした。気持ちを伝えるどころか筆談すらしようとせず逃げてしまったあの日。あの後何度も後悔しました。その時のことを謝るチャンスが来たんです。
 
「謝りたいことがあります! 京阪イベントの時、初めて聴覚障害者の方と会ってどうしていいかわからず、失礼な態度を取ってしまってごめんなさい。あれから手話を覚えました。そしてあなたのことをずっと待っていました。手話で伝えたくて、手話で謝りたくて、ずっとずっと待っていました!」
 
今度は逃げることもなく、筆談でもなく、相手の目を見て手話で伝えることができました。そしてこの時初めて名前を聞くこともできました。彼の名は高宮さん。

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