【第2回】夫婦円満の秘訣はアイドルの追っかけ | マイナビブックス

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木村鉄道株式会社 ~鉄ヲタだって人間だぁ! 社員編~

【第2回】夫婦円満の秘訣はアイドルの追っかけ

2015.08.14 | 木村裕子

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まさるさん(40代)/関西在住/木村鉄道での役職:総務部(社長への物資調達係)/入社:2011年
さと子さん(年齢は秘密♪)/関西在住/木村鉄道での役職:秘書課/入社:2011年

イベント出演まであと1時間。会場へ向かう道中の列車が、大雪で空転して進みません。私は今、鳥取駅を出発した列車内にいます。到着後に着替える時間もなさそうだから、予め車内で着替えておきたいけど、お手洗いがない車両だし…。

私「みんなー! ちょっとここで着替えるけど、こっち見ないでね~!」
社員「は~い」

2時間に1本しか走っていないローカル線の為、出演者もお客さんも必然的に同じ列車で会場入り。これはよくあることなんですよ。だって、この方法でしか現地へ行けないから。
記録的な大雪となったこの日。普通なら中止する野外イベントですが、何がなんでも行かなければなりません。なぜなら「雨天・降雪決行」と告知されてしまっているからです。でも大丈夫! 私もお客さんも、到着時刻は同じだから。
普通の人なら列車が遅れると困ってしまうけど、車内はちょっとしたお祭り状態です。
「雪で空転してるー!」
「長年鉄ヲタやってるけどこれは初めての経験だ!」
「動画撮影しておかなきゃ」
「運転士さん、ゆっくりでいいですよ~」
そして乗務員が車輪に砂を撒き列車が動くと拍手喝采。普段と違う運行状態に私たち一行は大興奮でした。

今回のお仕事先、鳥取県を走る若桜鉄道は、全長19・2kmで、駅数は9駅のというローカル線。比較的短い路線ですが、駅舎や鉄橋など登録有形文化財が23施設もあり、列車に乗りながら歴史的遺産巡りができます。
4~11月にはSL・ディーゼル機関車運転体験も行われていて、これが大ヒット大盛況! 中には30回以上運転体験に通う方もいるほどです。2011年1月にここで「若桜鉄道隼駅81周年機関車まつり」が行われ、ゲストとして呼んで頂きました。

何とか列車は隼駅に到着。野外ステージで絶え間なく降る雪に打たれながらイベントは進行していきます。持ち歌を歌っていると、目の前を除雪車が横切っていきました。こんな状況下でのステージは、後にも先にもこれ一度きり。
雨天・降雪決行だからスケジュール通りに撮影会も行われます。私は頭に雪を積もらせ、お客さんはかじかむ手を震わせながら一眼レフのシャッターを一心に押す。雪は音をかき消すって言いますが、数十台のカメラから一斉に鳴るシャッター音はハッキリ聞こえ、まるで修行のお経のようでした。
無事にステージを終え、一目散に待合室のストーブ前へ行くと、小柄な女性が手をかざしていました。それが私の中の記憶では、奥さんであるさと子さんとの最初の出会いです。

列車待ちの地元の方かなと話しかけると、旦那さんのまさるさんと一緒に、大阪から来たと言われて驚きました。
大都市の鉄道イベントならともかく、ローカル地に女性が来てくれるのは珍しい。その上、ご夫婦でというのも珍しい! あまりに衝撃すぎて、あの時に旦那さんと交わした会話の記憶がスッポリ抜けています。

「せっかくのお休みに連れてこられて大変でしたね…。せめて雪国を楽しんでって下さいね」

…と、奥さんを哀れむ言葉をかけました。きっと、この場限りだと思っていたから。

それなのに、このご夫婦はそれから日本全国各地のイベントへ、ほぼ皆勤の出席率でご夫婦揃って会いに来てくれます。
初めは鉄道にあまり興味がなかった奥さんも徐々に染まり始め「この前、●●系に乗ったよ!」と報告してくれる程になりました。今では立派な鉄子さんです。

ある日のこと。翌年のカレンダー発売記念サイン会の時でした。

私「さと子さん、来年の抱負は?」
さと子さん「旦那さんにもう少し優しくする…かな♪」
私「ああー、確かにねぇ。私にばっかり構ってるもんねぇ」

ここで時間になってしまい、不思議な顔をしたさと子さんを見送りました。

この時、会場がガヤガヤしていたこともあり、私は聞き間違いをしてしまったんです。
本当は「奥さんが優しくする」だったのに、「旦那さんに優しくしてもらいたい」と受け取ってしまいました。

旦那さんは私にばかりプレゼントを買ってくれるし、構ってくれます。奥さんもきっと、同じようにしてもらいたいはずじゃ? と日頃から思っていたこともあるからでしょうか。勘違いしたままだった私は「何かいい方法はないだろうか?」と考え、次のイベントで会った時に旦那さんにこう提案しました。

1年に10回、何か奥さんにしてあげること! どんなことをしたか、私に報告すること!もしできなかったら、次の年は私に会えないよ、という約束。「いい子にしてたらサンタさんに会えるかも♪」作戦です。

勘違いのままに生まれた約束でしたが、そこから旦那さんは変わりました。進んで奥さんのお手伝いをしてくれるようになったそうです。
奥さんは私にチェックリスト表を見せてくれます。「朝ごはんのパンを買ってきてくれた」「洗濯物を畳んでくれた」私はそこへ、花丸のチェックを入れていきます。

それでもやっぱり奥さんに対して引っかかる気持ちがあり、気がかりなことを聞いてみました。

私「旦那さんがアイドル追っかけで、奥さんも連れ回すなんて嫌じゃないの?」
さと子さん「ゆゆちゃんのイベントに行くと旦那は癒されるみたいで、仕事のストレスから起きる小さな夫婦喧嘩がなくなったんだよ。全国へ乗り鉄に行ったり、2人で出かけることも増えたの。私も電車に乗るの好きだし嬉しい限りかな」

そんな女神のような回答に、夫婦の形って二人で作るものなんだなぁと感心しました。

アイドルの追っかけをすることで、家庭円満を築く夫婦。それが二人の愛の形であり、相手を認め、受け入れてくれる。理解ある相手と出会えたことを羨ましく思います。あのニーチェも言っているじゃないですか。

――どちらも相手を通して、自分個人の目標を何か達成しようとするような夫婦関係はうまくいく

[社長から社員へのメッセージ]
旦那さんへ
高級プリン、限定チーズケーキ、松阪牛、洋服、ネックレス、キャリーバッグ…まだまだたーっくさん! いつもプレゼントありがとう。そして女性ファンの少ない私に、奥さんと出会わせてくれたこと、とても感謝しています。これからも私のことは「2番目の女」として愛してね!

奥さんへ
もう一つ作戦を考えました。何か欲しいものがあったらこっそり教えて下さい。「奥さんとお揃いの●●が欲しいなぁ♪」っておねだりしちゃいます。名付けて「あなたのものは私のもの、私のものは私のもの」作戦! どうですか(笑)?