空振り2003
新年早々、空振りをしてしまった!
グリーンに向かって左側に林があり、その林の最もフェアウェイ側に立っている2本の木の間にボールがあった。
木と木はグリーンに向かう線に平行だから、前にある木はスタイミーになっていて、後ろにある木はテークバックの邪魔になっていた。グリーンまでは約100ヤード。パー5の第3打目である。
私はその手のショットが得意だった。
でも、少しでも深く入れば横に出すことを躊躇したりはしない強さは持ち合わせているつもりだったが……、そのボールを見た時、『いける』と確信した。
理由は簡単だった。
ボールとグリーンまでは直線上に障害物がなかったのである。前にある木は完全にはスタイミーになっていなかった。ボールの後方に立って方向を確認しながら、あとは距離感だけと思っていた。
後方の木の影響でフルスイングどころか、ハーフスイングも上手くいきそうになかった。小さなテークバックでも気持ち良く100ヤードを転がせる道具は、8番アイアンだった。
8番アイアンを持って、素振りをした。
後方の木に触れないようにすると方向がまずい。前にある木に向かってボールが飛びそうである。
結局、テークバックでわざと後方の木にクラブヘッドを当てて、そのタイミングで打つ決断をした。
過去に何度も成功させている方法だった。
絶対の自信があった。
スーッとクラブを上げる、ゴチンと木に当たる感触、そして、何事もなかったようにクラブを降ろす。
手応えはあった。地面を打った手応え。
目の下では、ボールがそのまま止まっていた。まるでかすりもしなかったことがディボット跡を見ることで自覚できた。
ボールがあり、その自分側にディボット跡がポッカリ空いていた。
「空振りしました!」
同伴競技者に一応報告する。
不思議なことに、カッとなったりはしなかった。
妙に冷静に考えていた。こんなに綺麗な空振りはなかなかあるもんじゃない。この期に及んで空振りとは、ゴルフもまだまだ深い、なんて考えている内に笑ってしまった。
もう一度同じように振り上げて、振り下ろしてみた。
今度は上手くいった。
ボールはグリーンに向かって飛び、手前で落ちて転がりながらグリーンに上っていった。狙い通りのボールだった。
グリーンに向かいながら、空振りの原因を考えた。
『……』
何も浮かばなかった。
空振りとはそういうものである。
次のホールから空振りを全く意識しなかったかと言えば嘘になる。こういう時は、大胆に振るが慎重に決断する、という方法しかないことを思い出した。
帰り道で同伴競技者は私の空振りを目撃できなかったことを悔やんだ。私はほんの少しだけ幸せな気分だった。
(2003年1月16日)