【第3回】誉め殺し | マイナビブックス

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ゴルフプラネット 第11巻

【第3回】誉め殺し

2016.08.18 | 篠原嗣典

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誉め殺し

 

 「上手いね~。右肘の角度、意識して作ってるんでしょ?」

 「パットの時、トップで少し止まるのが距離感のコツなの?」

 「ドライバー、もう少しで300ヤード飛ぶんじゃない。凄いなぁ」

 「アプローチで左膝が上手く動くよね」

 「プロでもそうはいかないよ、日本一だね」

 

 無意識で出来てしまっていることを意識してやろうとすれば、多くの場合は失敗する。そんな事情を知っている人が、意図的に相手に対して行う妨害が、誉め殺しである。

 

 単純に感心して誉めるのは、全く問題がない、素晴らしい話であるが、誉め殺しに対して敏感になると、こういうような悪意がないことにも過剰に反応してしまうのは悲しいことである。

 

 誉め殺し。

 高等戦術であるだけに、意外に仕掛けるのは難しい。そういう意味では、やってくるぞ、と注意する人は限られるので、防御はやさしい。

 

 ラウンド中に、余計なことを言われても気にしないのである。無意識で動いている部分や、飛距離に関することに気を取られていては、ゴルフにならなくなり、相手の思う壺である。

 

 言葉で気にしないといっても、なかなか難しいものである。私の場合は、その日、自ら気にしているポイントを話すことにしている。

 「そうですか。ありがとうございます。たぶん、それは右肩の位置を意識してスイングしているせいだと思うんですよ。次のショットから、右肩の位置を見ていてくれませんか?」

 そして、相手が悪質だと思ったら、逆手にとって攻撃する。離れたところにいても、

 「右肩、こんな感じですか?」

と、こちらを四六時中見てなければいけないように声を掛けるのである。

 

 ラウンド中のアドバイスは、規則8条の違反である。競技中であれば、その方向から、アドバイスになりますから、とやんわり注意するという手もありである。

 

 誉め殺し以外でも、言葉による攻撃に弱い人がいる。逆に、言葉で相手を崩すことに生き甲斐を感じている屈折した人もいるので、自らの防衛手段は知っている方が賢明であると言える。

 

 言葉での攻撃に弱い人の特徴は、厳しく書くと、自己責任の範囲が狭い人である場合が多い。極端なことを書けば、言葉で攻撃されて失敗しても、自分の責任である。それを、言葉を掛けてきた人に責任があると思うから、いつまでも苦しむのである。攻撃する側から言えば、テキスト通りの獲物である。

 

 まず、意識の改革である。何を言われても、反応するのは自分の責任であると自覚すること。よって、どんな結果が出ても、仕掛けてきた相手に対しても余裕を持った対応をするようにする。相手の術中にはまらないことを徹底することで、相手にとってつまらない対象となり、自然と遠ざかっていくようになるものである。

 

 何かを言われたことで、コースや用具が変化することはない。つまり、悪意のある言葉は、OBを近くしたり、池を広げたり、グリーンを遠くしたりする魔法の呪文ではないのである。そういうように感じるのは、錯覚した自分だけなのだ。世界は変わらずに自分の回りに存在する。そう思って、普通にすれば良いのである。

 

 もし、何も言われなければ、どうしているのか? どうしていたのか? それを考えて、その通りにすれば良い。単純であるが、複雑にする必要はない。

 

 そして、慣れてきたら客観的に言われた言葉を分析することである。上手いなぁ、と思うこともあれば、幼稚だなぁ、と同情することもあるであろう。極めれば、相手が過剰に反応するポイントも見え隠れするものである。馬鹿の一つ覚えのように、同じことを繰り返していると気が付けば、呪文の力はなくなったといっても過言ではない。

 

 良いことではないが、そういうことが好きな人間もいることを認めて、反応しない自分を作り上げることが、そういう人間の撲滅に繋がると思えば良いのである。

 

 沈黙のゲームであるゴルフ。

 静寂を作り出すコツは、相手を黙らせることではない。自らの耳と脳が、コントロールしながら作るものである。

(2002年1月24日)

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