●バランスの話
あなたは自分のドライバーのバランスを言えますか?
それは、12in計ですか、14in計ですか?
では、アイアンのバランスはどうですか?
バランスというのは、D0とか、C8とかで表される「持った感覚」の数値ということになっている。つまり、同じ数値のバランスのクラブは持った感じや振った感じが同一であるはずというありがたい数値なのだ。秤は14in計が一般的で、アイアンについては全てを同じにするのが良いという説と、長い物は軽く、短い物は重くが良いという説に分かれる。
現実的には、死語化しているという専門家もいて、シャフトの素材やクラブヘッドの素材、グリップの重量の多様化などで、バランスが全く一緒でも、持った感じや振った感じが全く違うクラブも少なくない。複雑な要素が絡み合って「感じ」というのは成り立っているのだ。
そうは言っても、このバランスというのは軽く見ると痛い目に遭う。シャフトの硬さのバラツキが原因で起きるボールの高さの不均等を解決していくのには、バランスは非常に大切な要素になるのだ。
かつてウッドクラブが本当に木だった頃は、同じブランドのクラブでもバランスにはかなりの開きがあった。これはヘッドの大きさを同一にしたときに、生き物故にヘッドの重さが違うから起こる現象で、振り返れば味わいがある時代であった。
そんな事情もあって、上級者はバランスにこだわると誤解する人も多く、クラブを持ってグリップして
「これはD2だな……」
と渋く呟く偽上級者もいた。
絶頂時の中嶋常幸プロは、マッチ棒1本の重さの違いをグリップした瞬間に言い当てたという伝説もあったが、クラブを持ってこれはD2だとか言い当てるのは、フロッピーディスクを持って中に何のファイルが入っているのか言い当てているのと同じくらい奇妙な話で、気味悪がられることはあっても、尊敬はされない。
ショップにいる頃、お客様がD3のスプーンを修理に持ち込み、D3にしてということがあった。秤で測ってもD3。こういう場合は事情を説明しても、D3だと信じてもらえない。とにかく軽いのだという(昔は上級者ほど重いクラブを使用する傾向があった)。
後日、全く触らずに、終了しましたと言って渡す。本人は大満足で喜んでいる。もちろん、お代はいただけないが、クラブを売る仕事は「夢を売る商売」と思っていたので、夢は売れたと納得していた。そのお客様にとって、クラブを信じるための儀式だったのだ。
このバランスという数値、上手に使うと魔法のようなことが出来る。その話は紙面の都合上、次週「鉛マジック」で紹介する。
今週は、バランスの入門編をお送りした。
(2000年2月23日)