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戦国サラリーマン 山本勘助①

【第0回】はじめに

2014.12.25 | ナリタマサヒロ

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はじめに


「このごろ、都に流行るもの、夜討強盗、謀綸旨(にせりんじ)……」

ご存知、日本史の授業で有名な「二条河原の落首」である。
「落首」とは、時の為政者に対する批判や、社会の風潮に対する風刺などを謳った、匿名の詩歌を指している。

この落首は、建武元(1334)年に鴨川の二条河原に掲示され、当時の建武政権の混乱ぶりや、不安定で物騒な世相を風刺たっぷりに描いているが、人間の営みの愚かさや滑稽さというものは、時を隔てた?21世紀の今日でも、さほど変わっていないことに気付くだろう。

例えば、自由主義にして資本主義のわが国の社会状況は、前世紀に消滅した「社会主義」以上に「計画的」かつ「統制的」な経済と言われ、「会社資本主義」と揶揄されている。

事実、日本人労働者の大半は、「サラリーマン」であり、「会社」という統制組織の中に組み込まれ、その構成部品として、常に正確・精密であることが求められているのだ。

そのような「会社組織」を基本とする価値基準が、我々日本人のメンタリティの基本となったのは、おそらく、戦国時代の頃からであろう。

つまり、当時の戦国大名家に仕える武士たちこそ、当時の悲しきサラリーマンであり、彼らは、組織のため、家族のために、常に命懸けで、滅私奉公してきたのである。

そうした行動原理に親近感を覚えるからか、某国営放送の大河ドラマでも、いわゆる戦国モノは、軒並み高視聴率を記録しており、中でも、2007年に放映された『風林火山』は、伝説の天才軍師・山本勘助を主人公に描いた力作として、視聴者のみならず、出演者からも好評を博したことは記憶に新しい。

しかし、山本勘助の実像をどこまで正確に描いていたか? という観点に立てば、「所詮はドラマなのだ」と、割り引いて見ざるを得ない部分があるのは否めない。

その生涯は、当時の平均寿命に近い年齢になるまでに恵まれず、晩年にようやく、武田家に採用されたことにより、歴史に名を残すまでになったという、極めて皮肉なものだった。

しかし、その功績は、シルバー採用された新参者でありながら、古い体質の組織の中で、果敢に改革を断行し、信玄をして最強の戦国大名にならしめたほどの功労者なのである。

本書では、山本勘助こそ、我々サラリーマンの大先輩と考え、彼の生き様から多くの教訓を学ぶことを目的としている。

組織で働く男とは、どう生きるべきかということをしっかりと学び取って欲しい。