【第9回】二人暮らし
2017.01.11 | 川口世文
9 二人暮らし
古池広幸はこの一ヶ月ほど、八歳になる長男との二人暮らしを余儀なくされていた。二人目の出産を控えて、妻は静岡の実家に帰っている。
初産(ういざん)より二度目の方が楽だとはいうが、長男の出産はかなりの難産だったし、おまけに職場では「風疹」が流行りつつあったので、古池の意見を押し切って、できるだけ大事をとることにしたのだ。
リーマンショック以降、一人の生活保護ケースワーカーが抱える担当件数は如実に増えて、家庭訪問も満足にできないほど面接やデスクワークが増加している。おまけに〝節電対策〟のために残業の制限も厳しくなって、どんどん仕事の進め方が不自由になってきていた。