【第12回】愛有丸出港
2017.04.21 | 川口世文
12 愛有丸出港
「はいはい、今起きるから……」
正義は浜崎に起こされた。布団の感触がいつもと違うので、すぐに釣り宿に泊まっていたことを思い出した。
「何?……トイレなら廊下に出て……」
正義がようやく片目を開けると、枕元にはすっかり身支度を整えた浜崎が立っていた。昨日出掛けに釣具店に寄って慌てて買ってきた、真新しい防寒着を着ている。
室内はサイドランプの仄かな明かりしかない。窓には薄いカーテンが閉まっているだけなのに、まるで鎧戸でも下ろしたように外は真っ暗だった。