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詰将棋探検隊が行く ~特別編「果し状」の巻~

2016.04.04 | 角 建逸

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こんにちは。
最近、南行徳にはいい公園がたくさんあることを知った編集部の島田です。

今日は現在予約受付中の伊藤果先生の作品集「果し状 ―伊藤果詰将棋50年作品集―」を紹介します。

 

ただ、紹介するのは私ではありません!
本書の構成・編集の担当者であり、詰将棋探検隊の隊長としても知られる角建逸さんに書いていただきました。

それでは「詰将棋探検隊」特別編のはじまりはじまり。

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隊長 4月と言えば桜の季節、そして年度始まり。将棋界も新しい年度が始まります。
隊員B 連盟HPの昇段者の中に、伊藤果八段の名前がありますね。
隊員C あれ、だいぶ前に引退されてたんじゃなかったっけ。
隊長 引退棋士の昇段規定というものがあるそうですよ。その伊藤新八段は、4月末に詰将棋作品集『果し状』を出されます。お祝い事は重なるものですね。
隊員A 今回の作品集は、詰将棋創作50年の集大成とのことで、箱入りの豪華本なんですね。
隊員C 隊長はその出版のお手伝いをしていたんでしょ?
隊長 バレたか(笑)。そんなわけで、同書から、いくつか作品を紹介していきましょう。

■京都三羽烏
隊長 伊藤八段は奨励会時代から創作を始めています。そのいきさつは、ご本人がいろんなところで語っています。
隊員A 同じ京都に住んでいた若島正氏の活躍を知って、会ってみたんですよね。
隊長 そして、長編趣向作で有名な上田吉一氏も合流。〝京都三羽烏〟として、その名を轟かせることになりました。
隊員C 三人が三人とも京都だなんて、びっくりぽん!や。

<A題  「将棋世界」1967年8月号>



隊長 2歳年下の若島さんに刺激を受けて、バリバリと作り始めた伊藤少年の初入選作がこの作(A題)。
隊員C あは、こじんまりとした実戦型じゃないですか。それもこんなに持駒があって。
隊長 甘く見てはダメ。見た目ほど簡単ではないよ。問題図では2一の銀が邪魔駒。だから、途中図(下図)になればどうかな?

<A題途中図>



隊員C ▲3四桂△1二玉▲2四桂△同馬▲3二龍(詰め上がり図)まで。5手詰なら秒殺ですよ(ふんふん)。
隊員A つまり、どうやって途中図まで持っていくか、ですね。
隊長 そういうこと。

A題詰手順
▲1二銀成△同 玉▲3四角△2二玉
▲3一銀△2一玉▲1二角成△同 玉
▲2二銀成△同 玉(途中図)

隊長 まず、2一銀を3四角に打ち換えます。
隊員B 今度は3四角が邪魔駒になってしまいましたよ(笑)。
隊長 邪魔だからって、すぐに消えてくれるわけではないからね。3四角で2三からの脱出は防いだので、3一銀から、途中図に至るのです。
隊員A 2一の銀を消すのに、10手もかかるんですね。都合15手詰ですか。うまいものですね。
隊長 これが初入選作なんですから。当時伊藤少年は16歳。最初からベテランのような巧さですよ。

<A題詰め上がり図>



■職業作家として
隊長 昭和50年に晴れてプロとなった伊藤四段。詰将棋作家として、知られていましたから、新聞などのメディアで、今度は詰将棋を出題する立場になりました。
隊員A 毎日出題しているのもありましたよね。
隊長 趣味でなく仕事として、大変な数の詰将棋を作らなくてはいけません。
そんな中で、たまには奨励会時代と同じように将棋雑誌に投稿したりも。次作もそういう一作です。

<B題 「近代将棋」1981年1月号>



隊員B 盤面6枚で、考えてみたくなる図ですね。
隊長 普段から、将棋ファンに解いてもらうための詰将棋を創作されているため、伊藤八段は簡素図式、4×4図式、実戦型といったジャンルを得意にされています。実は作品集でも、それらを併せて百題、それに代表作百題の合計二百題が収録されているんです。

B題詰手順
▲3三桂成△1一玉▲1四香△1二桂合(途中図)

<B題途中図>

※圭は成桂です

隊員B 4手目△1二歩合なら、▲同香成△同玉▲2四桂△同歩▲1三歩以下詰みますね。
隊員C ここまでは普通ですよね。
隊長 焦らない。問題はここからだから(笑)。実は本作も邪魔駒消去の作品。途中図では、今打ったばかりの1四香が邪魔駒になっているのです!
隊員A 確かに1四香がなければ、▲2二成桂△同玉▲1四桂以下の詰みですね。
隊員B だったら、3手目1四でなく1三香と打てばいいじゃないですか。
隊長 そう思うよね。だけど3手目▲1三香だと、△1二桂合▲2二成桂△同玉▲1四桂△2一玉となって、今度は1三の香が邪魔で詰まないんですよ。

途中図からの詰手順
▲2二成桂△同玉▲1三香成△2一玉
▲2二成香△同玉▲1四桂△2一玉
▲1三桂△1一玉▲3三馬まで15手詰
(詰め上がり図)

隊員C そうか、邪魔なら全部捨てればいいんだ。気持ちいい!
隊員B 待ってください。3手目▲1四香に対して、△1三桂合▲同香不成△1二桂合とすれば、詰まないのではありませんか?
隊長 駒を数えてごらん。連続桂合をするには、桂が足りないんだ。
隊員B あ、ホントだ。
隊員A なるほど。そのために4五桂の配置になっているわけですね。
隊長 合駒を強要して、壁にして詰ます──伊藤八段が好きなテクニックの一つです。

<B題詰め上がり図>



■果し状
隊員C 作品集の題名の『果し状』というのは、かなり挑発的なネーミングですよね。
隊長 娘さんの伊藤明日香女流初段のアイデアだそうですよ。伊藤八段ご本人は、創作生活五十年を綴った手紙のようなものとおっしゃってました。
それから題字は、弟子の上田初美女流三段の手によるもの。見事な装丁になっています。
隊員B 今回の二題のような図が多く収録されているなら、解いてみたいという気持ちになりました。
隊員A 伊藤八段と言えば、中合や移動合、捨て合といった合駒物、そして不成物が多い記憶があります。
隊長 作者は中編が一番得意だと思われていますが、ご覧の通り、実は短編も上手いんですよ。
また、銀や角、馬など、一つの駒が動き回る作や、繰り返し手順の作もあります。とにかく狙いが明快で、楽しい作品が多いんです。
隊員C そう言えば、伊藤八段は先日の解答選手権の打ち上げにも顔を出されていましたね。
隊長 若島さんが参加されてましたからね。『果し状』では、若島さんが解題を、上田さんが序文を書いていますから。
隊員A 三羽烏が集結したわけですね。ますます本が楽しみです。
(了)


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