2018.10.11
高価なiPhone XSかMaxか、それとも比較的リーズナブルなXRか。AppleのiPhone戦略を理解すれば、自ずと自分にふさわしい新しいiPhoneが見い出せるかもしれません。
驚きの高価格
今回のスペシャルイベントで、iPhone XSの価格が発表された瞬間、それまで好意的な雰囲気だった会場が凍りついたように一瞬静まりかえりました。ほとんどの人が噂を信じて、アップルは地球上で最高のスマートフォンの価格を「値下げする」と考えていたからです。
アップルはiPhone XSを999ドル(11万2800円)から、iPhone XS Maxを1099ドル(12万4800円)からに設定し、64GB、256GBに加えて、512GBモデルもラインアップしました。iPhone XS Maxの最上位モデルの金額は1499ドル(16万4800円)。給料や物価が上がらず、デフレ圧力が強い日本だけがこの金額を「高いと感じる」と嘆く声の拡がりがツイッター(Twitter)に流れているのを会場からリアルタイムで見ていました。しかし、米国のイベント会場でも、この価格が「納得できる」ととらえた人は少なかったように思えます。
アップルのティム・クックCEO自身も、この新しい最高のスマートフォンに付けたプライスタグが決して安くないことを認めています。その一方で、より幅広い人々にアップルのイノベーションを届けられるラインアップに仕上げたとも説明しています。つまり、iPhone XS/ XS Maxが安くないという反応は想定していたものと思えます。
別の角度から価格を分析してみましょう。2017年モデルのiPhone(iPhone XおよびiPhone 8シリーズ)の販売台数は前年同期程度だったものの、アップルは売上高を大幅に伸ばすことに成功しました。たとえば直近の2018年第3四半期決算では、1%の販売台数の伸びに対して20%の売上高の成長を記録しています。その理由は、1台あたりの平均販売価格の上昇です。
第3四半期は例年、最新モデルから価格を下げて併売される旧モデルの販売比率が高まり、平均販売価格が下落する傾向にありました。しかし2018年第3四半期決ではそれが起こらず、平均販売価格は720ドルを上回りました。つまり、iPhone 8 64GBモデルの699ドルより上のモデルが好調だったのです。
ここでアップルが今年リリースした第三のiPhone XRの価格を見てみると、749ドル(9万8500円)からとなっています。つまり、この金額は2017年モデルの平均販売価格以上であることから、アップルはiPhone XS/XS Maxより安価なiPhone XRが販売の大半を占めたとしても、きちんと売上を見込める戦略を採っているのです。
このように考えると、アップルがiPhone XSシリーズに託した役割がわかってきます。無闇に価格を下げる必要性はなく、スマートフォン最高峰としての地位を確立してiPhoneのブランドを牽引するフラッグシップとして機能するほうがふさわしいのです。限定となるゴールドカラーが従来よりシックな色合いで、エレガントな雰囲気になっているのも、「高級感の演出」の点で納得ができます。
このように、価格にフォーカスすると、今年のアップルのiPhone戦略は非常に明快です。そして、平均販売価格はiPhone XRの749ドル近辺か、やや上振れすることになることでしょう。iPhoneユーザの長年のロイヤリティの高さや昨今のアプリやデータ容量の増加を考えれば、より大容量のストレージを求めるからです。
なぜ今年のiPhoneは高いのか
今年のiPhoneのラインアップは、新しいiPhone XS、XS Max、XRで、従来よりも高価格に設定されています。2017年モデルで奏功した高価格戦略を踏襲する形を採っており、安価なモデルとしてはiPhone 7と8が継続販売されます。
iPhone以外選べない
今年のイベントの中で、環境・政策・社会イニシアティブ担当シニアバイスプレジデントのリサ・ジャクソン氏が登壇し、アップルの環境対策について時間を割いて説明を行いました。なぜ、アップルはこのようなプレゼンテーションを用意したのでしょうか。
ジャクソン氏はこれまでも、アップルが100%再生可能エネルギーに転換したことや、130年の間、二酸化炭素を排出してきたアルミニウム製造を、酸素を排出する新しい手法に転換することについて説明してきました。今回の新しいiPhoneでは、メイン基板に使用するスズをリサイクル資源で賄うことを発表。これによって、毎年1万トンもの鉱物の採掘を防げることを強調しました。
ファッションの世界では、人権保護や動物愛護、資源保護が叫ばれ「エシカル」であることがブランドの価値に含まれてきました。工業製品であるテクノロジー製品であっても、労働環境や賃金の問題に続いて、気候変動や地球資源の保護などを、競うべきブランド価値であるべき、とのアップルの考え方が広まりつつあります。
アップルはしばしば、こうした取り組みを世界中の企業に真似してほしいと語ります。しかし現実問題として、利幅を非常に大きく確保するアップル以外に取り組みを前に進めることができる企業はありません。もちろんそのこともアップルは理解したうえで、新たな取り組みに突き進んでいるのです。もしひとたび人々が「エシカルテック」を意識した瞬間、アップル以外の製品は選べなくなる。そうした強烈な価値を、iPhoneユーザは手にしていることを暗に伝えたかったのではないでしょうか。
AppleだからできるエシカルIT
新しいiPhoneの発表イベントでは、Appleの環境対策についても説明がされました。たとえ工業製品であっても環境問題に取り組むことは重要である。時価総額世界No.1企業としての責任だけではなく、そこにはiPhoneを使うことこそがエシカルITにつながることを強調したブランド戦略も見て取れます。
6.5インチの意外性
昨年アップルは5.8インチのiPhone Xをリリースし、前面すべてをディスプレイで覆う「オールスクリーン」を新基準としました。これまではiPhone 8プラスの5.5インチがもっとも大きな画面サイズでしたが、これをさらに上回る画面サイズを、iPhone 8と差ほど変わらないiPhone Xの筐体に搭載したのです。
そして今年、iPhone XS Maxを登場させ、そのスクリーンサイズを6.5インチにまで押し広げました。高い品質の有機ELディスプレイが6.5インチの大画面で迫ってくる。写真を撮っても、ストリーミングビデオを見ても、ゲームをプレイしても、何をしても今までとは異なる体験に見えてくる。そんな感動が6.5インチの新しいディスプレイにはあります。
しかし、実際に手にとってみるとiPhone史上最大サイズのスマートフォンは意外に小さく感じます。iPhone 8プラスと比較しても、長さや幅がわずかに小さくなっている程度だからです。5.5インチモデルのiPhone 8プラスから乗り換える人にとっては幾分コンパクトで、4.7インチのiPhoneからでも大きな抵抗感を感じないでしょう。オールスクリーンのデザインのメリットは大画面化で際立ってくることを実感させられます。