相樂園香「3Dで作り出す斬新な2Dグラフィックス」|MacFan

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相樂園香「3Dで作り出す斬新な2Dグラフィックス」

文●栗原亮写真●黒田彰

やってみたいがカタチになる! AUTODESK FUSION 360でデジタルものづくり

平面デザインは2Dグラフィックスソフトから生み出すもの。そんな固定概念を払拭し、新しいデザイン表現を追求し続けるのが、メイカー/ファブリケーションディレクターの相樂園香さんだ。Fusion 360を駆使する彼女の手にかかれば、“3D to 2D”の新しいグラフィックスが生まれる。そんな彼女は3Dものづくりとどう出会い、Fusion 360のどこに惹かれたのか。

 

 

相樂園香

3D起点でデザインすれば、あらゆるクリエイティブに新しい表現が生まれます

メイカー/ファブリケーションディレクター。大阪芸術大学卒業後、東京・渋谷の「FabCafe」(ロフトワーク)に勤務、カフェ運営やイベント・ワークショップ企画、デザインなどを担当。2017年フリーランスとして独立する一方、メルカリの研究開発部門に勤務。企画・3Dデザインなどデジタルメイキングの世界を広めるための活動をマルチに行っている。

 

 

イメージを形に

メイカー/ファブリケーションディレクターとしてマルチに活躍する相樂園香さん。美大在学中はグラフィックとキュレーション(アートイベントのマネジメント)を中心に、写真、立体、映像、服飾のテキスタイルなどさまざまな分野のアートを実践してきたが、デジタルの3Dに関してはまったく触ったことがなかったという。

「『アドビ・イラストレーター』などの2Dグラフィックソフトは利用していましたが、立体造形は粘土をこねたり、ステンドグラスを削ったりと、アナログの経験しかありませんでした」

そんな相樂さんが卒業後に上京して働き出したのは東京・渋谷にあるデジタルものづくりカフェ「ファブカフェ(FabCafe)」。当時はまだ珍しかった3Dプリンタやレーザーカッターを店内に備え、デジタルファブリケーションのイベントやワークショップが頻繁に開催される職場だった。当然ながら運営スタッフとして、3Dソフトの操作についても熟知することが求められる。

勉強のためにと高機能な業務用3Dモデリングソフトに挑戦したものの、マウスの動かし方からしてわかりづらく、あえなく挫折。そんな折に出会ったのがオートデスク社の3Dモデリングソフト「フュージョン360(Fusion 360)」だった。

「フュージョンは操作性が直感的で、“回転”とか“押し出し”とかアイコンを見ながらたいていの操作ができます。頭の中でイメージしたものを形作るのにうってつけで、グラフィックデザインをやっていた者としても自然に入り込めます。企業用ライセンスもわずか数万円ですし、何より非営利目的なら無料で使えるのが最高です」

 

画面の中がスタジオに

ものづくりの仕事がきっかけで3Dソフトの面白さに目覚めたという相樂さん。これまでの2Dグラフィックとの違いはモノの見方の自由度にあるといいます。

「2Dだけだと、描いているモノの形がどのような構造でできているのかを深く考えなくても済みますが、3Dではそうはいきません。たとえば植木鉢のような単純な形状であっても、ある断面を回転させて底に穴を開けるのか、上下別に作って組み合わせるのかなど、立体的な発想が求められます。完全に2Dと使う脳が違うのが面白かったです」

新たな視点が求められる一方で、3Dならではの大きな利点を見つけた相樂さん。中でも、作成したオブジェクトの表現を自由に変更できる点を挙げる。

「2Dで描いたモノはあとから色を変えるくらいしかできませんが、3Dでは角度を変えたり、光源の位置や明るさを変えることもできます。たとえるなら“撮影スタジオ”がそこにあるようなイメージですね。3Dによって、2Dの表現も広げられるというわけです」

そう言って見せてくれたのは、CM動画用に作成したネオンサインのグラフィック。実物を撮影したようにも見えるが、これはフュージョンで作成した3Dモデリングデータだ。

「実際のネオン管がどのように作られているのかをよく観察してからデータを作成しました。ネオンサインは1本のパイプを曲げて作られていますが、フュージョンにも線のデータをパイプ形状にする機能があるのでそれを用います。背後に隠れて発光しない部分も折り曲げていますが、実際のネオン管には存在しないような角度で曲げると不自然になってしまうのです。しかし、フュージョンは干渉があるとエラーを返してくれるので、とことんリアルさを追求できます」

それに加えて、いったんモデリングデータを作成してからも光の強さや色合い、影の落ち方などのバランスを整えることで、完成度をさらに高められるのだという。

「『ピンクのネオン』だからといってネオン管自体をピンク色に塗ってはリアルさが損なわれます。この場合は影の設定をピンクにすることがポイントなのですが、明るすぎると今度は影が白くなってしまいます。そのバランスの調整は苦心したところです。でも、限られた時間でも納得いくまでクオリティを追求できるのがフュージョンのいいところですね」

 

2Dと3Dは分けない

短期間で3Dクリエイターとして独立し、多くの商業作品を制作するようになった相樂さん。彼女がクリエイティブで大事にしていることは「3Dソフトで何を作るか」ではなく、「作りたいものを3Dソフトを通じて表現すること」だと話す。

「2Dと3Dでそれぞれ違いはありますが、3Dで作ったものは2Dグラフィックにも活かせますし、2Dで必要な観察力は3Dのクオリティ向上には欠かせません。2Dや3Dを分けて考える必要はないのです。もちろん、3Dに特有のコツもありますが、フュージョンはソフト自体が簡単に扱えますし、サポートもしっかりしています。ユーザコミュニティも活発で、調べたり質問すればすぐにその先に進めます。すでにグラフィックをやっている人こそ、表現を広げるために3Dにチャレンジしてほしいです」

 

WORKS Digital Making in FUSION 360

©ロレアル パリ インファリブル  ファンデーション PR ©Chuya Koyama / KODANSYA ×FabCafe キャンペーン

 

MAKING NOTE

(1)2017年、CMの動画用に制作したネオン管のレンダリング。実際のネオン管と同じようにパイプを曲げて3Dモデルを作成している。実際のネオン光画像をいくつも見ながら、より画面上でリアルに見えるマテリアルを作成した。

(2)(1)を制作時のFusion 360画面。実物と同様1本のパイプを折り曲げ、光る部分と黒い部分で文字を表現した。

(3)Fusion 360を使い始めて一番最初に企画したワークショップ用レンダリング。3Dオブジェクトをデザインするうえでの基本機能をひととおり使って作れる形とのこと。当時から趣味のひとつでもあった観葉植物用にプリントもできる植木鉢をテーマにした。テラコッタの質感を出すために実際のテラコッタ画像からテクスチャを生成している。

(4)2Dのポスターに使用するために3Dモデルを作成した作品。データ内に照明や背景、オブジェクトを配置し、レンダリングしている。レンダリングの際には焦点距離や光源も調整できるので実際にスタジオでの物撮りのような空間をソフト内で作成。複数のアングルから撮影(レンダリング)し、写真を選ぶように画像を選択したという。

(5)紙を28枚重ねて作成した半立体のポスター。月のクレーターの表現はFusion 360で3Dモデルを作成し、プラグイン「Slicer」を使用し2D化。生成されたパスデータを元にレーザーカッターでカットし、順番に紙を重ねることで3Dモデルのままの立体を表現することができた。

(6)FabCafeとマンガ「宇宙兄弟」のコラボレーションのため、コミックの中に登場するキャラクター型のクッキーカッターを作成。パスデータから立体化し、食品に使用可能な素材で3Dプリントしている。抜いた際にクッキー生地がつまらないよう調整を繰り返し完成した。

 

 

Fusion 360をもっと詳しく知ろう!

Fusion 360は、3D CAD/CAM、レンダリング、2D図面作成などの機能を含んだ高機能な3D制作ソフト。アイデアの検討から本格的な設計まで「ものづくり」をするすべての人におすすめでき、3Dビギナーにとっても最適な選択肢だ。すべての工程はクラウドで管理され、Mac、Windowsのいずれも利用できる。基本は月額課金だが、学生・教職員など、非営利目的であれば無償で利用できるのも利点。同ソフトを用いた最先端のデジタルファブリケーションの事例も公式サイト内で確認できるので、まずはアクセスしてFusion 360の世界を知り、体験版をダウンロードしよう。

https://www.autodesk.co.jp/products/fusion-360/overview?mktvar002=744704&utm_medium=print-media&utm_source=print-adv&utm_campaign=japa-mfg-fusion-360-jp-magazine-article&utm_id=744704