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AppleのAI活用

文●大谷和利山下洋一らいら写真●黒田彰apple.com

ライバルと比べて本当に遅れているのか?“売り物”にしないApple流の人工知能と機械学習

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昨今メディアで話題に上らない日がないほど注目されている「AI(人工知能)」。そのAI分野において、Appleはライバル企業に比べ遅れているといわれている。しかし、その「遅れ」とはいったい指しているのだろうか。AppleのAI活用の本質は、“AI研究の先端競争”からは見えてこない。では、どのようなビジョンのもと、AppleはAIを私たちの生活へ落とし込もうとしているのか。本特集は、自身からはあまり多く語られないAppleのAI活用について紐解くものである。

 

世界の大手IT企業が進めるAI開発
“Appleは遅れている”って本当?

 

ビッグデータとAIの成長

「世界にコンピュータは5つあれば足りる」という予見をご存じだろうか。米・サンマイクロシステムズ社のCTOだったグレッグ・パパドポラス氏が2006年に述べた言葉だ。同氏のいうコンピュータはデバイスではなく、グーグルやアマゾンといったクラウドプラットフォームを指す。クラウドは規模の経済の競争であり、市場の成長とともに大規模なプラットフォームへの吸収が進み、やがて5つぐらいになるという予測だ。それはビッグデータ時代到来の予言でもあった。

そして今、ビッグデータ・ブームに乗って、「AI(人工知能)」という古くからあった技術がまるで新しく発明されたかのように飛躍的な成長を遂げ始めている。ビッグデータの情報量は人の手に負える規模をはるかに超えている。AIなら、それを立ちどころに処理・分析できる。それだけではない。自律的な機械学習によってデータを消化・吸収し、AIは自らをより高性能なものへと成長させられる。AIがビッグデータから有益な知見を引き出し、それを用いたサービスや機能がより便利になって、さらに多くのデータが生成されAIの進化が促進する。そんなプラス循環が働き始めている。それは18~19世紀の産業革命や20世紀終盤からのインターネット革命に匹敵するような変化を、私たちの社会や暮らしにもたらすと期待されている。しかも、過去の革命的な変化をはるかに凌ぐペースで成長曲線を伸ばしている。

そうした変化において、有利な立場にあるのがビッグデータを持つ企業である。情報社会の次に来る超スマート社会の覇権を握ろうと、グーグルやアマゾン、マイクロソフト、IBM、フェイスブックといった世界的なIT大手がAIの開発に力を注いでいる。しかし、PC時代からモバイルへのシフトを牽引したアップルは、パパドポラス氏が予想した“5つのコンピュータ”の候補に入っていない。アップルは2011年にiPhone 4sに「シリ(Siri)」を搭載し、どこよりも早くAIと人々の接点を作った。機械学習の研究・開発も積極的に進めている。でも、“AIファースト”ではない。近年グーグルがAIを次世代のインターフェイスとして強くアピールし、グーグル検索を含むすべてのサービスにAIを広げるビジョンを示す一方で、アップルは数ある重要な技術の1つという姿勢を貫いている。

そのため、アップルが第二のブラックベリーになる可能性を指摘するアナリストもいる。スマートフォンが一般ユーザに普及する前に、市場にはブラックベリーが君臨していた。それがiPhoneの登場によって携帯電話の使い方が変わると、新しい波に乗り遅れたブラックベリーは瞬く間に衰退してしまった。今iPhoneは好調である。でも、ビッグデータAIサービスやユビキタスなAIアシスタントが人々から強く求められるようになったら、iPhoneだってブラックベリーのように新たな波に飲み込まれてしまうかもしれない。

 

AI活用は始まったばかり

本当にアップルはiPhoneの成功に甘んじて、AIによって変わる未来を思い描けずにいるのだろか。

新しい技術に対して、一般ユーザのニーズを満たし、人々が使いこなせるようにしてこそブレイクスルーが起こるというのがアップルのスタンスだ。技術は何かを可能にしてくれるが、問題を出発点にソリューションとして用いてこそ価値がある。技術そのものを出発点にしては、その価値が人々の手に届かない。

GUIでも、タッチインターフェイスでも、アップルはインターフェイス技術の研究で最前線を走っていたわけではない。それでも、人々のライフスタイルを変え、人々が使いこなせるように技術を製品に組み込んで提供してきた。自然言語処理、最適化や推論、音声や画像などの認識、操作・連係など、AI活用の範囲は広く、近年の進化とともにさらに拡大しようとしている。しかし、私たちの問題のソリューションとしてのAIの活用はまだ始まったばかりだ。私たちはAIによって社会や暮らしが変わっていく未来への入り口に足を踏み入れたに過ぎない。AIという車輪のアイデアには到達した。しかし、その車輪をどのように組み立て、何に役立てるか、今はまだ模索している段階にある。

 

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「モバイルファーストからAIファースト」を掲げて、一昨年から全事業規模のAI導入を推進するGoogle。CEOのスンダー・ピチャイ氏は「人類にとってAIは火や電気と同じぐらい重要なものになる」と主張する。

 

 

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AIブームに警鐘を鳴らす声もある。AIスタートアップ、ジェオメトリック・インテリジェンスの創業者のゲーリー・マーカス氏は、AIの可能性を信じる1人として、昨今のAIブームの過熱はAIを再び冬の時代に陥らせる大きなリスクと指摘する。

 

 

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Appleが買収したSiriの共同創設者であるトム・グルーバー氏。Siriが過去に成功した例のない音声操作を一般に浸透させられた理由として、スマートフォンという音声操作が求められる市場にフォーカスしたからと述べている。SiriはWEB向けには提供されなかった。




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