“ユーザファースト”を徹底するアップルの長期的なAI戦略|MacFan

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プライバシーを重んじる安全で高速な機械学習を実現

“ユーザファースト”を徹底するアップルの長期的なAI戦略

文●大谷和利山下洋一らいら写真●黒田彰apple.com

“AIファースト”へ舵を切るIT企業が多い中、アップルはAI戦略においても“ユーザファースト”の姿勢を貫いている。ここでは、アップルが描くAI活用のビジョンと、製品に盛り込まれているAI技術を見ていこう。

シンギュラリティの本当の意味

昨年グーグル傘下のグーグル・ディープマインド(Google DeepMind)社が開発したAI囲碁プログラム「アルファ碁(AlphaGo)」が、囲碁棋士の世界チャンピオンに完勝し、大きな話題になった。AIが棋士を追い越すには長い年月を要すると見られていたが、深層学習を応用したアルファ碁はAIや人間との対局を重ねながらめきめきと実力を磨き、短期間で囲碁の世界の頂点に登りつめた。そうしたAIのめざましい進化を目の当たりにして、いずれAIが人類の脅威になると懸念する人が増えている。「AIに仕事を奪われる」というような指摘もよく目にするようになった。

 

 

世界最強棋士とされる中国の柯潔 九段との三番勝負を全勝したアルファ碁。従来の囲碁AIは人間の対局データを学習していたが、アルファ碁は一切人間に頼らず、ゼロからAIが独学しながら勝率の高い戦法を編み出した。【URL】https://blog.google/topics/google-asia/alphagos-next-move/

 

 

最近、「シンギュラリティ(Singularity)」という言葉をよく耳にする。「AIが人類の知能を超える特異点」という意味で使われ、2045年頃には現実になると予測されている。でも、それは本来の意味と異なった使われ方であるのをご存じだろうか。シンギュラリティは、AIのようなテクノロジーの成長によって、人類がテクノロジーの力を用いて生物的な限界を超えた成長曲線を描けるようになる特異点を指す。AIの進化ではなく、人類の進化を意味する。

アップルのAI戦略は、シンギュラリティ本来の意味を汲みとっている。2017年12月にティム・クックCEOが中国でのインターネットカンファレンスに参加した際に、AIの役割について「人間の能力を拡大し、飛躍を助けてくれるもの」とコメントした。そして、人のように考える機械に対してではなく、AIを正しく導くべき人が機械のように考える可能性のほうを同氏は懸念していると述べた。