今だからこそ知っておきたいそもそもAIって何?|MacFan

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大きくうねる第三次AIブームが到来

今だからこそ知っておきたいそもそもAIって何?

文●大谷和利山下洋一らいら写真●黒田彰apple.com

昨今、さまざまな場所でAIという言葉を耳にする。しかし、そもそもAIとは何なのか?ここでは、AIの歴史と、アップルのAI活用を紐解くうえで理解しておきたいキーワードを解説しよう。

「AI」という名の技術はない

ここ数年、「AI」という言葉を、さまざまな場所で見聞きするようになった。従来の製品やサービスにAIを載せ「AI○○」という言葉にするだけで、最先端に聞こえてくる。

しかし、「AIってどんな技術?」と聞かれ、正確に回答できる人は少ないだろう。一般的には「人間や動物の自然知能(自然が生み出した知能)をコンピュータ上に実現すること」と定義される。ただし、「AI」という単一のテクノロジーはない。機械学習、深層学習、自然言語処理など、さまざまな情報処理技術に関する研究分野が総合してAIと呼ばれている。

同じくAIへのよくある誤解として、「すでにAIは人間同様の知能を持っている」というものがある。近い将来SF映画のように、自ら意思を持って動き出すのではないかと不安を抱く人もいる。しかし人間の持つ自然知能は、何億年もかけて進化したものであるうえ、コンピュータと我々の脳は原理が違う。自然知能をそのまま人工知能で再現できるわけではないのだ。

そのため、現在のほとんどのAIは、それぞれの数学的問題を解決する「問題特化型」である。また、問題特化型知能を集合させたところで、人間同様の知能は実現しない。それほど人間の脳は複雑であり、高度な思考を持っているのだ。

ここで改めてAIの歴史を振り返ろう。実は昨今のAIブームは初めてのことではなく、過去にも二度のブームがあった。第一次ブームは1956年から1960年代。1956年にジョン・マッカーシーらが発起人となったダートマス会議で、「AI」という言葉が初めて登場した。この時代には、コンピュータで推論や探索をすることで、特定の問題を解く研究が進む。1964年にはのちにシリの原型となるコンピュータと人間の対話システム「イライザ(ELIZA)」が登場。しかし、いずれも現実に存在する複雑な問題は解けるようにはならず、ブームは終焉する。

第二次ブームは1980年代。コンピュータに大量の知識を入れることで賢くし、問題を解決するというアプローチが広がる。特定の専門分野の知識を取り込み、推論を行う「エキスパートシステム」はさまざまな分野で作られた。しかし、コンピュータに入れるための知識を専門家から引き出すコストや、大量の知識を適切に管理するコストが大きな課題となった。広範囲に渡る知識の記述も難しく、人間には当たり前の知識でも、コンピュータに正しく認識させることは想像以上に難しい。ひと昔前の機械翻訳が、めちゃくちゃな文章だったのは記憶に新しいだろう。人間は経験や一般常識をもとに、「私は」「私が」のニュアンスの違いを判断できるが、コンピュータが理解するには、膨大な知識を扱い、処理する必要があるのだ。結局、知識に関する課題は解決できず、AIブームは1995年頃に終わり、再び冬の時代を迎える。

 

1964年、コンピュータと人間がテキストベースであたかも対話しているように見せるシステム「ELIZA(イライザ)」が登場した。SiriにELIZAについて尋ねると、「私はELIZAから多くを学びました」「彼女は私の最初の先生だったんですよ!」などと答える。

 

 

自ら学習する知能へ

しかし、同時期に検索エンジンが誕生し、2000年代にインターネットが普及すると、WEB上には大量のデータが蓄積され始めた。その後、それらのデータを用いた機械学習(マシンラーニング)が広がり始め、近年の第三次AIブームにつながることとなる。機械学習ではコンピュータが大量のデータを処理しながら、イエスとノーに判断を分ける。さらにその分け方を自ら学習するため、未知のものに対しても、判断や予測ができるようになった。第二次ブーム時のように、人間がすべての知識を管理する必要がなくなったのだ。

現在はAI技術の核となる機械学習に加え、深層学習(ディープラーニング)の波も押し寄せ、大きなうねりが起きている。アップルはその中でどんな戦略を策定し、波に乗っていくのだろうか。3つのキーワードから、第三次AIブームとアップルの戦略を紐解いていこう。