デジタル時代の心のモニタリング|MacFan

アラカルト Dialogue with the Gifted 言葉の処方箋

デジタル時代の心のモニタリング

過去の記事で医療の未来について取り上げた際、ウェアラブルデバイスによる血圧や血中酸素飽和度などの生体データの常時モニタリングが、未来の医療のゲームチェンジャーとなる可能性を紹介しました。私は産業医として、日々心のバランスを崩した労働者のカウンセリングやケアを行っています。今回はアップルウォッチ(Apple Watch)の心のケアに関する機能のアップデートがあったため、心のモニタリングの重要性について考察しようと思います。

アップルウォッチの「マインドフルネス」アプリには、テーマに合わせて数分間自身の内面と向き合うリフレクト機能や、呼吸に意識を向けることで瞑想体験が行える呼吸セッションなどの機能が搭載されています。リフレクト機能では思考を離れるための幻想的な映像が表示され、また呼吸セッションでは映像に連動した振動によって直感的に呼吸と同期できます。マインドフルネスを習慣化するハードルを下げ、産業医としても労働者に推奨しやすくとても効果的なコンテンツです。

アップルはwatchOS 10でのアップデートについて、下記のように報告しています。

心の健康は体の健康と同じように重要で、研究によると、心の状態と向き合うことは、感情の認識を深め、回復力を高めるのに役立ちます。watchOS 10のマインドフルネスアプリでユーザは、慎重かつ便利な方法で瞬間的な感情や日々の気分を記録できます。ユーザはDigital Crownを回して魅力的な多次元の形をスクロールし、自分がどのように感じているかを選び、もっとも大きく影響を及ぼしている項目を選択して、自分の気持ちを記述することができます。

iOS 17とiPadOS 17のヘルスケアアプリでユーザは、人間関係や、睡眠や運動といった生活習慣など、心の状態に影響を及ぼしている可能性があるものを特定するのに役立つ情報を確認できます。さらに、ヘルスケアアプリから、クリニックでよく使われるうつや不安症の検査に簡単にアクセスできるようになり、ユーザが自分のリスクレベルを確認したり、自分の地域で利用可能なリソースにアクセスしたり、PDFを作成して医師と共有するのに役立てることができます。

前半の内容からは、誰もが簡単に自身の感情や気分を記録し関連因子との関係性を評価できることが推測されます。私が実践する企業研修の中でメンタル不調を予防するうえで一番大切にしているメッセージは、自身の心の状態を意識する習慣化にあります。その観点でもこの機能は心の健康を維持するための心のモニタリングを日常化するうえで重要な機能だと言えます。

後半の内容ではこれまで患者からの主観的な問診でしか把握が難しかった睡眠や運動などの生活習慣の客観的なモニタリング結果を、医療者と連携することでより的確で最適な医療を受けられるほか、医療資源の最適活用へもつながります。個人的に気になったのは人間関係について言及されている点で、今後どのような指標や機能が追加されるのかとても興味深いです。

すべての人が自分自身の心や体の健康状態を把握するリテラシーが向上し、自分をモニタリングできる時代。“よい病院”探しをするよりも、自分自身を“よい主治医”にしていくことが大切かもしれません。

 

幸福は気づくもの、健康は築くもの。

 

 

Taku Miyake

医師・医学博士、眼科専門医、労働衛生コンサルタント、メンタルヘルス法務主任者。株式会社Studio Gift Hands 代表取締役。医師免許を持って活動するマルチフィールドコンサルタント。主な活動領域は、(1)iOS端末を用いた障害者への就労・就学支援、(2)企業の産業保健・ヘルスケア法務顧問、(3)遊べる病院「Vision Park」(2018年グッドデザイン賞受賞)のコンセプトディレクター、運営責任者などを中心に、医療・福祉・教育・ビジネス・エンタメ領域を越境的に活動している。また東京大学において、健診データ活用、行動変容、支援機器活用関連の研究室に所属する客員研究員としても活動中。主な著書として、管理職向けメンタル・モチベーションマネジメント本である『マネジメントはがんばらないほどうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)や歌集・童話『向日葵と僕』(パブリック・ブレイン)などがある。