第28話 IT依存の人類は目覚まし時計と共に生きる|MacFan

アラカルト デジタル迷宮で迷子になりまして

デジタル迷宮で迷子になりまして

第28話 IT依存の人類は目覚まし時計と共に生きる

文●矢野裕彦(TEXTEDIT)

テクノロジーの普遍的ムダ話

気がつけば日々、さまざまな通知に囲まれて生活している。メールやメッセージの通知のほか、カレンダーに書き込んだスケジュールやリマインダーにメモしたToDo、各アプリの通知など、MacやiPhoneをとおして頻繁に通知バナーが表示される。

特に、アップルウォッチ(Apple Watch)の通知は手首が振動するのですぐに気づく。通知が届いたときに直接身体的な刺激を受けるわけで、少なくとも通知を有効にしている限り無視できない。そのため、自分に届く通知の精度はできる限り上げておきたい。どうでもいい通知は見たくないし、重要な通知には必ず気づきたいのだ。

もちろんアップルもそんなことは承知しているようで、iOSには通知を細かく設定できる機能が備わっている。しかし、特にサードパーティアプリについては、通知の内容や頻度はアプリやサービスに依存されている。そして、アプリ側ではそのような気配りができず、重要な通知も無意味な通知も分け隔てなく送られてくるものがけっこうある。

たとえば、銀行口座のやりとりやクレジットカードの引き落としなどは見落としたくないので、これらのアプリには通知を許可することになる。しかし、忙しくしている最中に銀行アプリから通知が届き、作業を中断して内容を見たら「あなたにオススメのキャンペーンがあります」とかだと、思わずひざから崩れ落ちることになる。こんなくだらない通知を気にしていたくはないのだが、止める手立てがない。同じアプリから送られてくる通知の重さに違いがありすぎるのは、通知を重視して生活している私には大問題である。

そんな通知依存症の私にとって、スケジュールの通知は特に重要だ。仕事もプライベートもスケジュールはカレンダーに入力しており、必要なタイミングで通知が届くようになっている。Macで作業中にバナーが表示され、30分後に打ち合わせがあるとわかれば、そこから準備してオンライン会議に臨む。

ただその一方で、完全に忘れているスケジュールがときどき現れることに気がついた。不意に表示された通知を見て、そういえば明日、そんな予定があったと思い出す。

最近は、届いたメールからイベントを自動で読み取ってワンクリックでカレンダーに登録したり、日付をクリックして登録できたりとテクノロジーが先回りして、スケジュール登録してくれる場面が増えた。確かに便利なのだが、半自動でカレンダーに書き込まれたスケジュールは気のせいか印象が薄く、忘れがちだ。

通知に頼っているのはそれらが適切なタイミングで届くからだが、その多くは自分でセットしたものだ。大昔、まだ物理的な手帳でスケジュールを管理していたころ、カレンダーにスケジュールを書き込む主な目的は、もちろんあとで見返して確認できるからだった。ただその際、書くことで整理して印象づけ、記憶に残すという効果も重要だったと思う。目覚まし時計をセットするとき、その時間を意識することでアラームが鳴る前に目が覚めるという経験が何度もあるが、内容を意識してスケジュールをメモする行為もそれに似ているかもしれない。

思えばカレンダーの通知も、自分で仕掛けたアラームがしかるべきタイミングで起動しているに過ぎない。起きる時間を自ら指定してアラームを鳴らす目覚まし時計と、仕組みは何ら変わらない。

夜中にこんな原稿を書きながら、デスクトップ上に通知されたスケジュールのバナーを見て、明朝起きなければならない時間を思い出す。そしてiPhoneでアラームをセットして、約6時間後に届く通知を待ちながら眠りにつくのだ。

 

 

写真と文:矢野裕彦(TEXTEDIT)

編集者。株式会社TEXTEDIT代表取締役。株式会社アスキー(当時)にて月刊誌『MACPOWER』の鬼デスクを務め、その後、ライフスタイル、ビジネス、ホビーなど、多様な雑誌の編集者を経て独立。書籍、雑誌、WEB、イベント、企業のプロジェクトなど、たいがい何でも編集する。