第26話 ガラパゴスな発想こそが 日本を国際的にしていく|MacFan

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第26話 ガラパゴスな発想こそが 日本を国際的にしていく

文●矢野裕彦(TEXTEDIT)

テクノロジーの普遍的ムダ話

私は四国の出身なのだが、子どもの頃、我が愛媛県にテレビの民放は2局しかなかった。そのため関東出身の同世代と昔のテレビ番組の話になると、系列局のなかったTBS系の話題が極端に弱い。我々の世代における、ローカルあるある話だ。しかし最近、「全国放送」という言葉から、逆にすごくローカルな印象を受ける。

東京のキー局が制作した番組は、長くトップコンテンツだった。おそらくは今でもそうで、社会への影響力もかなり大きい。一方で、世界への影響力という物差しで測ると、それは途端に矮小な存在に見える。対抗となるのは、ネットフリックス(Netflix)やアマゾン(Amazon)プライム・ビデオなどのネット配信サービスの番組だ。

国内に限れば、視聴者数は地上波が上だ。しかし、これらの映像配信サービスは今や世界中に視聴者の基盤を築いており、視聴者数は圧倒的に多い。従来はハードルが高かったグローバル市場に打って出る道筋があらかじめ用意されており、国内放送に比較するとレバレッジが効くため、ヒット作の影響力は巨大だ。映画館ではなく、テレビやPCという手軽なモニターで見られるうえ、ツイッター(Twitter)上の感想などを見て、気になればすぐに視聴できるので、SNSとの相性もよく、バズりやすい側面もある。この視点で捉えると、東京のキー局で制作している国内向けのコンテンツの実態は、今や「国内ローカル番組」と言える。

配信サービスではさまざまなオリジナルコンテンツが生まれているが、韓国発の連続ドラマなどには一日の長があり、多彩なジャンルで世界的なヒット作がめじろ押しだ。片や日本のコンテンツで相性がいいのはアニメだろう。以前から日本のマンガやアニメは世界で人気だが、ここに来て加速している印象を受ける。過去の作品はもちろん、最新作も国内とほぼ同時にリリースされており、国内で人気のアニメは世界でも人気だ。

一方で、「国内ローカル番組」とネット配信の関係から興味深い現象も起きている。「はじめてのおつかい」という長寿番組がある。未就学児がおつかいに行くというやや無理がある設定だが、エンターテインメントとして人気だ。そしてこれがネットフリックスで配信されたところ、海外で大人気となった。この番組に対しては以前から「海外では児童虐待で、非難の的になる」といった“想像上の評価”があったが、まったくの杞憂であった。

なにゆえウケたのか。子どもがカワイイとかハラハラするといったコンテンツ特有の面白さはもちろんあるのだろうが、端的に言えば、それが日本独自の発想から生まれたからではないかと思う。

社会が安全な日本では、特に田舎では見守り社会が確立していたので、小さな子どもがおつかいをする姿を純粋に応援するだろうという予想の元に生まれたコンテンツであろう。逆に言えば、現代の海外では想像もできない日本独特の設定だ。日本独特だからこそ海外で評判になったわけで、それは日本市場向けの作品が海外でウケているアニメとロジックは同じだ。

日本独自というと、“ガラパゴス”という表現でネガティブな意味合いで語られてきた。しかし、今世界でウケているのは、日本で作られたグローバル向けのコンテンツというわけではなく、おそらくガラパゴスなコンテンツだ。そもそも日本で、海外向けに作って成功した作品の話は、あまり聞いたことがない。

配信のインフラが国際的になり、ネット上はコンテンツにとってもフラットな世界に向かっている。やや元気を失いつつあるように見える東京の“国内ローカル局”だが、ローカルを追求することで見える未来もあるのではないだろうか。

 

 

写真と文:矢野裕彦(TEXTEDIT)

編集者。株式会社TEXTEDIT代表取締役。株式会社アスキー(当時)にて月刊誌『MACPOWER』の鬼デスクを務め、その後、ライフスタイル、ビジネス、ホビーなど、多様な雑誌の編集者を経て独立。書籍、雑誌、WEB、イベント、企業のプロジェクトなど、たいがい何でも編集する。