“傾いて生きる”ことの意味|MacFan

アラカルト Dialogue with the Gifted 言葉の処方箋

“傾いて生きる”ことの意味

今回は、私がその個性的な生き様に大きく影響を受けた2人の医者と、人々が心身の健康である「ウェルビーイング」を感じながら豊かに生きるための社会的処方について紹介します。

1人目の医者は、1998年上映の映画「パッチ・アダムス トゥルー・ストーリー」のモデルとなったハンター・アダムス医師です。彼は映画の中で登場した「夢の病院」の建設を今も続け、人がよりよく生きること(ウェルビーイング)の大切さを伝えています。

彼は小児科の癌病棟などでクラウン(道化)の姿で医療として笑いを提供したり、患者の夢を叶えるために茹でたパスタを簡易プールに敷き詰めて一緒に入るなど、映画で描かれているとおりの“患者第一主義”を独自の医療スタイルで続けています。

2人目の医者は、医学部を卒業しながら、医師を仕事とすることなく漫画家になった手塚治虫氏です。漫画という手段で、人が生きる意味や医療の本質を問い続けた手塚氏の生き様に、私は学生時代に強く感銘を受けました。

私が「遊べる病院」をデザインしたり、本連載を書くなど独自のスタイルで医療を実践できているのは、ユニークな生き様を持つ両氏が、医師としての原風景を描いてくれたからです。

再生医療で臓器を作れたり、出生前診断で生命の選択を迫られたりと、先端医療は我々に新しい医療倫理の課題を突きつけています。あらゆる分野で明確な基準のない時代だからこそ、病気よりも患者である人間と向き合い続けるハンター・アダムス医師の医療哲学や、手塚氏の作品に込められた人の在り方を一度立ち止まって考える時期に来ていると感じました。

そこで社会的処方として、私は2022年3月にハンター・アダムス医師を日本に招致し、ウェルビーイングを実践する教育者など、さまざまな分野の方との対話を通じて、現代人に必要なウェルビーイングの意味を学ぶ機会を設ける予定です。「Meme of Patch Adams」と名づけた本イベントの詳細は、プロジェクト公式サイトをご覧ください([URL]https://gifthands.jp/patch)。

ところで、「歌舞伎」の語源は「傾く(かぶく)」という言葉にありますが、目指すべき先人の姿が見えない時代では、頭を傾けることで、隠れていた景色が見えるようになるかもしれません。1997年のアップルの広告キャッチコピーとして有名な「Think different」、そして「Crazy Ones」をまさに地で行くようなユニークな医者の生の言葉から、皆さんも自分なりのウェルビーイングを言葉にするための気づきを得てみてはいかがでしょうか。私は彼らの言葉から“傾いて生きること”の勇気をもらい、ウェルビーイングに毎日を生きています。

 

漫画で未来を見せる医者と、道を化かして常識を疑う医者。

 

 

Taku Miyake

医師・医学博士、眼科専門医、労働衛生コンサルタント、メンタルヘルス法務主任者。株式会社Studio Gift Hands 代表取締役。医師免許を持って活動するマルチフィールドコンサルタント。主な活動領域は、(1)iOS端末を用いた障害者への就労・就学支援、(2)企業の産業保健・ヘルスケア法務顧問、(3)遊べる病院「Vision Park」(2018年グッドデザイン賞受賞)のコンセプトディレクター、運営責任者などを中心に、医療・福祉・教育・ビジネス・エンタメ領域を越境的に活動している。また東京大学において、健診データ活用、行動変容、支援機器活用関連の研究室に所属する客員研究員としても活動中。主な著書として、管理職向けメンタル・モチベーションマネジメント本である『マネジメントはがんばらないほどうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)や歌集・童話『向日葵と僕』(パブリック・ブレイン)などがある。