障害はどこにあるのか?|MacFan

「社会の課題を解決する」と聞くと、“一般人”として社会で暮らしている自分には関係のない話だと感じるかもしれません。そんな方々に、今回は私が所属していた東京大学の研究室が運営している「アクセス・リーディング」について紹介したいと思います。

アクセス・リーディングでは、読むことに困難があり、特別支援を必要とする子どもに向けた教科書・書籍の電子データ(音声教材)を提供しています。東京大学先端科学技術研究センター図書室が、読むことに困難があり、特別支援を必要とする子どもの支援を目的として、同センター人間支援工学分野と共同で運営しています(【URL】https://accessreading.org/index.html)。

「障害の社会モデル」という言葉をご存じでしょうか。たとえば、皆さんの周りに目や足に障害がある人がいるとしたら、その障害は目や足に存在するように感じるかもしれません。障害は、かつては個人の心身機能によるものとして、個人の課題と捉えられる医療モデルとして取り扱われてきました。一方の社会モデルは、障害はモノ、環境、人的環境などの要因からも発生し、これらの障壁を取り除くのは社会の責務であり、社会全体の問題として捉える考え方です。

障害の社会モデルは、2006年に国際連合で採択された「障害者権利条約」に始まり、現在障害というテーマを取り扱ううえで主流の考え方となっています。なお、具体的な障壁としての社会的バリアには、段差などの物理的なバリア、入学試験などで補助具が持ち込めないなどの制度的なバリア、情報に対するアクセス性のバリア、偏見などによる心のバリアがあります。

読み書きなど学習環境に関するさまざまな困難さがある子どもに対して、iPadやiPhoneを中心とした便利なアプリを活用して教科書をデジタル化することで、音声読み上げ機能やフォントサイズの変更が可能となり、彼らの学習環境は大きく改善します。しかし、アクセス・リーディングが登場する以前は、教科書には数多くの著者が含まれるため、デジタル化する際には著作権の問題で多くの社会的障壁が存在しました。

すべての人の学ぶ権利を確保するためには、まず障害が宿る場所を知り、社会的な障壁を失くすためのアクセス・リーディングのようなサービスを知ることが重要です。社会モデルという概念を知り、障害のあるなしに関わらず、社会を作るすべての人が考えるべき社会課題であることに気づくことが、障害を社会全体の課題として捉えるための最初の一歩です。社会を作る一員として社会の課題を解決するために、まずは知ることから始めてみませんか。

 

 

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Taku Miyake

医師・医学博士、眼科専門医、労働衛生コンサルタント、メンタルヘルス法務主任者。株式会社Studio Gift Hands 代表取締役。医師免許を持って活動するマルチフィールドコンサルタント。主な活動領域は、(1)iOS端末を用いた障害者への就労・就学支援、(2)企業の産業保健・ヘルスケア法務顧問、(3)遊べる病院「Vision Park」(2018年グッドデザイン賞受賞)のコンセプトディレクター、運営責任者などを中心に、医療・福祉・教育・ビジネス・エンタメ領域を越境的に活動している。また東京大学において、健診データ活用、行動変容、支援機器活用関連の研究室に所属する客員研究員としても活動中。主な著書として、管理職向けメンタル・モチベーションマネジメント本である『マネジメントはがんばらないほどうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)や歌集・童話『向日葵と僕』(パブリック・ブレイン)などがある。