関係性を生む娯楽の処方箋|MacFan

アラカルト Dialogue with the Gifted 言葉の処方箋

関係性を生む娯楽の処方箋

今回は、公益社団法人NEXT VISIONが“人生を豊かにする社会的処方箋”として実施しているゲームイベントの内容と支援機器について、そして娯楽機器を処方することの意義を紹介します。

私自身も学生時代の多くの時間をゲームに費やしましたが、かつてゲームは専用のゲーム機を保有するファンによる趣味の領域にある存在でした。しかし、iPhoneが登場して以降、現在では多くの人がアプリとしてゲームをスマホの中に所持し、日常的にオンラインゲームを楽しんでいます。ゲームは今、ソーシャルコミュニケーションツールとして機能しているのです。

「自由に草原を走ったり、摩天楼を飛び回れた」

「安心して失敗体験ができるから、本気で友だちと競争できた」

「日焼けや眩しさを気にせずに、子どもと世界中をドライブできた」

これらは手足や目、皮膚などに病気や障害を持つ子どもや大人がゲームをとおして自己実現できた際に述べたコメントの一部です。私は医者としてゲームが持つ教育・医療的な効果を探究するために、ゲーム機のアクセシビリティ機能(視覚、聴覚、肢体不自由などさまざまな困難さがあるユーザの利用を想定した補助機能)の紹介と、困難さを抱える人々が考えついた使い方の工夫をともに学び、共有するイベント「G│1グランプリ」を開催しています。その様子はWEBにて全編公開中ですので、ぜひご覧になってください(A https://nextvision.or.jp/category/g1-grand-prix/)。

自分の経験を通じて考えると、学童期において“かけっこが速い”ことや“勉強ができる”ことと同じくらい、“ゲームが強い”ことは重要な意味を持っていました。ゲームの世界で自己実現や成長実感を得ることは、生きる意欲と社会接続の機会を増加させます。また、ゲームは協力プレイや対戦プレイを通じて、他者との関係性を学べるコミュニケーションツールになります。

最近のゲーム機は処理・演算能力の飛躍的な向上によって驚くほどきれいな映像体験を提供します。VRなどに代表される体感型のゲーム機の登場を考えると、今後現実世界とゲーム内での体験は限りなく近づくでしょう。また、ゲームソフトやハードに実装されたアクセシビリティ機能も充実しており、iPadをサブディスプレイとして使用するなど、ほかのICT機器と連係し、使い方を工夫することでさまざまな困難さがある人々がゲームを通じて社会参加を実現できる環境が整いつつあります。

人生100年時代、世の中がますます便利になっていく中で、真の豊かさを与えてくれるのは、ゲームという娯楽なのかもしれません。少なくとも、私はその可能性を本気で信じて、医者として娯楽の処方箋を発信し続けていく予定です。

 

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Taku Miyake

医師・医学博士、眼科専門医、労働衛生コンサルタント、メンタルヘルス法務主任者。株式会社Studio Gift Hands 代表取締役。医師免許を持って活動するマルチフィールドコンサルタント。主な活動領域は、(1)iOS端末を用いた障害者への就労・就学支援、(2)企業の産業保健・ヘルスケア法務顧問、(3)遊べる病院「Vision Park」(2018年グッドデザイン賞受賞)のコンセプトディレクター、運営責任者などを中心に、医療・福祉・教育・ビジネス・エンタメ領域を越境的に活動している。また東京大学において、健診データ活用、行動変容、支援機器活用関連の研究室に所属する客員研究員としても活動中。主な著書として、管理職向けメンタル・モチベーションマネジメント本である『マネジメントはがんばらないほどうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)や歌集・童話『向日葵と僕』(パブリック・ブレイン)などがある。