呼び名にまつわる話。息抜きにお読みください。
『呼び名の由来』
新人の相内と先輩社員がエレベータの前で話している。
「ひとつ聞いてもいいですか」と相内。
「何?」と先輩社員。
「部長の名前は、大きい谷と書いて、確か『おおたに』と読むんですよね」
「そうだよ。それがどうした」
「みんな『おーやさん』て呼んでますけど」
「本人がいない時だけな」
「いない時だけ?本藤課長もそうです。『もとふじ』なのに、『ほんとう』さんって呼んでます。なぜなんですか」
「そのうちわかるよ」
「そのうち、じゃなくて、今、教えてください」
「二人が英語を話すのを聞いたらすぐにわかるって」
「えっ、英語と何か関係があるんですか」
ドアが開き、外国人クライアントと並んで部長と課長が出てくる。
二人してペコリと頭を下げた。
「噂をすれば何とやら。ナイスタイミング。よーく聞いてろよ」
耳元で先輩社員が囁くように言った。
エレベーターには乗らず、遠ざかって行く三人の話し声に耳を傾ける。大谷部長が盛んに相槌を打っている。その横で本藤課長も……。
Oh, yeah? … Really? … Oh, yeah? … Really?
「なるほど。そういうことですか」
「よかったじゃないか。謎が解けて。ところで、お前、何て呼ばれてるか知ってるか」
「えっ?」
相内がきょとんとした顔をしている。
「海外での生活が長かったからなのか、『痛い』とか『しまった』を英語で言うだろう」
「そうですか……自分ではわからないですけど」
「だから、相内じゃなくて、『アウチ』って呼ばれてるんだよ」
するとすかさず相内が切り返す。
「じゃあ先輩は、ジャジャーンですね」
「ジャジャーン?何だそれ。思いつきでいい加減なことを言うな。俺にそんな口癖はないぞ」
「先輩の場合は、口癖じゃなくて、名前ですよ、名前」
「名前?」
エレベーターが到着し、乗ろうとすると、後方から誰かの声が聞こえてくる。
「あっ、先輩、呼んでますよ」
二人して振り向く。再び呼び声がエレベーターホールに響き渡った。
「多田!多田!」(了)
(「会話(7回)」参照)
楽しいゴールデンウィークを。Have a nice Golden Week.
『呼び名の由来』
新人の相内と先輩社員がエレベータの前で話している。
「ひとつ聞いてもいいですか」と相内。
「何?」と先輩社員。
「部長の名前は、大きい谷と書いて、確か『おおたに』と読むんですよね」
「そうだよ。それがどうした」
「みんな『おーやさん』て呼んでますけど」
「本人がいない時だけな」
「いない時だけ?本藤課長もそうです。『もとふじ』なのに、『ほんとう』さんって呼んでます。なぜなんですか」
「そのうちわかるよ」
「そのうち、じゃなくて、今、教えてください」
「二人が英語を話すのを聞いたらすぐにわかるって」
「えっ、英語と何か関係があるんですか」
ドアが開き、外国人クライアントと並んで部長と課長が出てくる。
二人してペコリと頭を下げた。
「噂をすれば何とやら。ナイスタイミング。よーく聞いてろよ」
耳元で先輩社員が囁くように言った。
エレベーターには乗らず、遠ざかって行く三人の話し声に耳を傾ける。大谷部長が盛んに相槌を打っている。その横で本藤課長も……。
Oh, yeah? … Really? … Oh, yeah? … Really?
「なるほど。そういうことですか」
「よかったじゃないか。謎が解けて。ところで、お前、何て呼ばれてるか知ってるか」
「えっ?」
相内がきょとんとした顔をしている。
「海外での生活が長かったからなのか、『痛い』とか『しまった』を英語で言うだろう」
「そうですか……自分ではわからないですけど」
「だから、相内じゃなくて、『アウチ』って呼ばれてるんだよ」
するとすかさず相内が切り返す。
「じゃあ先輩は、ジャジャーンですね」
「ジャジャーン?何だそれ。思いつきでいい加減なことを言うな。俺にそんな口癖はないぞ」
「先輩の場合は、口癖じゃなくて、名前ですよ、名前」
「名前?」
エレベーターが到着し、乗ろうとすると、後方から誰かの声が聞こえてくる。
「あっ、先輩、呼んでますよ」
二人して振り向く。再び呼び声がエレベーターホールに響き渡った。
「多田!多田!」(了)
(「会話(7回)」参照)
楽しいゴールデンウィークを。Have a nice Golden Week.