小さな希望
新年の挨拶もほぼ終わり、正月なんてずいぶんと前のことだったような気がしつつカレンダーを見れば、1月も半分が過ぎようとしている。
今年の1月はゴルフ業界の人からルールブックの話をよくされる。
ルール改正の年という内容の話ではない。残念ながら、多くのゴルフ業界人はオリンピック年に大改正が行われることすら知らないぐらいルールに無頓着な人が多い。まあ、普通にゴルフをしている範囲なら自分が不勉強の分だけ不利になる覚悟をしていれば、ゴルフルールは単純明快で悪いことではないとも言えるので、この傾向に文句を言う気はない。
「ルールブックが今年はどこでもよく動いているようだね」
というような話である。理由は知らないが、今年は過去に例がないぐらいルールブックが小売店で売れているらしい。
私ははじめの内は、ルールブックの普及に躍起になっている私へのお世辞かと思い、あまり深くは考えなかったが……行くとこ行くとこで、同じような話を聞いた。業者によっては、創業以来初めてのペースだとかいう威勢の良い話も聞こえてきた。
私の周囲を見渡した感じでは、全く実感できない。近所の小売店はルールブックを置いていないところもあるし、置いてあるところでも、爆発的に売れているようなオーラは出ていない。でも、現実として流通の現場ではルールブックが活発に動いていると言うのだ。
まあ、元々がお付き合い程度でルールブックを扱うところが大半だから、ほんの少し動いただけでも、大騒ぎされるという微妙なものだという可能性は高い。しかし、私はこの話に少し癒された。ほんの少しでも、理由は分からないけど、ルールブックを手にしようという人が増えることは良いことである。
種明かしがあって、後から落胆するかも知れないと警戒しつつも、私はニコニコしながら年明けの挨拶回りをしていた。
変な話だが、希望は小さければ小さいほど嬉しいような気がする。特にゴルフにかんしては、そう感じる。
絡んでいるジュニアゴルファーの集まりでも、小さな希望が光る話があった。ネガティブな話ばかりになりがちなジュニアゴルフ関連の集まりで、「最近、石川くんに良い影響を受けている子供が多いよね」という話があったのだ。
思い当たることがあった。
例えば、運営している親子ゴルフ大会で子供の服装について、保護者と激論しなければならないときがある。あまりゴルフを知らない親で、自分のファッションセンスに圧倒的な自信があり、子供に納得しない服を着せたくないというケースがある。
ゴルフウェアなんて、最低のオヤジ着で、子供には着せたくないという話までは、私も一般論として受け入れるのだが、デニム素材、Tシャツ、裾だしは駄目だという最低限のラインは譲れない。
TPOを考えられないファッションセンスなんぞ、糞食らえだと思っているので、どうしても最低限の決まりが守れないなら参加を取り消してキャンセルしてくださいませ、とお願いするしかない。
そういわれると急に大人しくなる。参加はしたいからだ。
参加はしたいけど、決まりは守れないのは、単なるわがままである。
わかってもらえたと思うのはまだ早い。そういう保護者はかなりの確率で実力行使に出るのだ。当日、駄目だといった服装で登場する。着替えも持っていないと言い張る。最悪である。
最初の頃は私もど肝を抜かれたが、慣れとは恐ろしいもので最近では、そういうケースでは、他の参加者に洋服を貸してもらえないか相談するという話までして、着替えるか、不参加で帰るかという二者選択を迫る。
着替えがありましたと、不満足感をむき出しにして着替えて一件落着ということになる。こういうことが年に何回かある。
しかし、石川遼くんがメディアに出だした昨年の梅雨明けぐらいからこの手のトラブルが急激に減った。そして、石川くんを明らかに意識した身体にフィットした感じのウェアを着る子供が増えたのである。
格好いいという感覚は時代と共に変化する。憧れも、またしかり。良い見本さえいれば、事態は好転するものだっただけなのだと拍子抜けしたりもする。
私が思い当たった例だけではない。他にも、石川くんの登場以降、笑顔が光っているジュニアゴルファーが増えたとか、笑顔で挨拶が出来るジュニアゴルファーが増えたとか、まさにハニカミ王子旋風が爽やかに魔法をかけているという訳なのだ。
直接ゴルフに関係ないことかも知れないが、重要なことだと思う。印象というのは、時としてその実態すら変えることがある。
ルールブックの話のように、当たり前のことが当たり前になっていく流れは気持ちが良いものであり、良い手本の影響力でその流れが加速していくのはもっと気持ちが良い。
1年の始まりは良い話でスタートしたい。そう言う願いは意外に叶えられないものだったが、今年はなんだかとても良い感じなのである。
(2008年1月15日)