【第2回】マスターズ2006雑感 | マイナビブックス

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ゴルフプラネット 第25巻

【第2回】マスターズ2006雑感

2016.01.21 | 篠原嗣典

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マスターズ2006雑感

 

■改造されたコースについて

 

 元々設計概念としてグリーンを狙うときの番手を設計者は考慮する。オーガスタナショナルは、ボビー・ジョーンズとアリスタ・マッケンジーの両名の設計であるが、残されている資料や逸話を総合しても、使用する番手についてこだわっていることが分かる。

 

 B・ジョーンズは、荒造成(ただ木を切り、まだレイアウトなどは見えてこないレベル)の段階からコースに入り、実際に自分でボールを打ち、ティの位置やその他諸々の配置を決めた様子が写真でも残されている。また、マッケンジーはオーガスタナショナルに関して各ホールの解説を残して、その中に、ロングアイアンで狙うホールとかミドルアイアンの精度を試すというような表現がある。

 

 今回の改造について、単なる数字で長い長いという前に、設計理念に照らし合わせて考えるべきだという声が練習ラウンドから上がりだした。

 

 結論から言えば、その通りだったのだろう。

 

 コースのセッティング、特にグリーンの状態は、一昔前のように硬さで難しくするということはなく、天候のせいもあったとしても固すぎず良い球は止めて、悪い球は止めない。スピンコントロールが悪いショットには、カップに寄せることを拒否するという面白さは、このコースのグリーンがショットバリューを試すという概念で作られたことを再確認させられた。

 

 長いアイアンで攻めるホールのグリーンは、長いアイアンで打たれたボールを止めるように受けている場所がある。そのようなグリーンを短いアイアンで攻めるとバックスピンのコントロールが難しい。掛かりすぎてグリーンを転がり出てしまうシーンが何回も見られた。

 

 そういうことを面白いと感じるか、つまらないと感じるかは好き嫌いの範疇であるが、私は結構面白いと感じながら見ていた。

 

 しかし、それによって、飛ぶ人だけが有利にならないという平等を謳うのはやや無理があったと思う。飛ばない選手で良い成績もいたが、同じスコアでも内容の違いは歴然としていた。飛ばし屋の選手が、全体的にパットの調子が悪く、スコアが伸びず、飛ばない選手で上位の選手は、パットの調子が良かったという偶然に支えられた結果である。

 

 タイガー・ウッズでも、アーニー・エルスでも、ビジェイ・シンでも、フィル・ミケルソンでも、決め所のパットが4日間通して入っていたら独走していただろう。最終日に瞬間的にパットが入ったミケルソンが勝ったわけだが、飛ばない選手には同じ内容でチャージをかけるのは無理である。

 

 とは言え、飛ぶ選手と飛ばない選手が全く同じゴルフをするという事も気持ちが悪いので、無い物ねだりと言うことなのだろうか。

 

 

■中継

 

 タイガーと日本選手優先の放送は、毎度書いているが、巨人さえ映しておけば数字が取れるという日本のスポーツマスコミの体質を引きずったものであり、本当に前向きな挑戦をする人材がいないTBSには、マスターズ中継を別の放送局に譲って欲しいと願ってやまない(まあ、実際はマスターズ中継だけは自由競争という感じで決定されるのではないようなので、無理なんだろうけど)。

 

 とは言え、今年は前半は大風邪をひいていて声がいつもと違った岩田さんが話をするシーンが多く、その点だけは面白かった。

 

 色々とイレギュラーな日程だったとは言え、優勝争いについては放送終了時間に合わせた録画編集というのはTBSだけの事情ではないだろうが…… ネットでかなり早い時間にミケルソンの優勝が分かってしまう時代だけに興醒めしてしまった。

 

 

■日本選手

 

 片山晋呉は頑張ったと思う。元々、器用な選手で、自分の攻め手やパターンも多彩である故に、長いコースを前にしても切り替えがきいたのだと思われる。

 

 反面、丸山茂樹にはマスターズだけなく、昨年のゴルフから通して『目覚めなさい(女王の教室風)』と思えてならない。

 

 昨年も、今年も何度も口にしているが、米ツアーに来たときは、ドライバーの平均飛距離で上の方だったのに、最近では下の方だからお手上げだと言う話である。それは本当なのだろう。周囲の飛ぶ選手に合わせてコースのセッティングや改造はなされる。だから、実際に飛ばなくなった丸山は、飛ばし屋の戦略は通じない。

 

 では、どうするかと、いうことになるのであるが、飛ぶ選手という意識で、飛ばすゴルフの組み立てを繰り返し、自滅している現状を見るにつけ痛々しいのである。

 

 強い信念は、時としてゴルファーにとって最大の武器であるが、同じ確率で爆弾にもなるのである。

 

 元々丸山は器用な選手である。ゴルフの神様は、彼の肩から上を試している。

 

 

■応援

 

 始まる前はエルスを応援していた。前半の2日間もエルス頑張れ、と思っていた。そろそろマスターズに勝たないと、エルスは勝てないまま終わってしまうような感じがしたからだ。

 

 もちろん、マイケル・キャンベルの今年絶好調の勢いも好きなので、応援したし、シンも好きなので応援した。

 

 いずれにしても、タイガーのパットが今イチ入らないことに安心しつつ、ホセマリア・オラサバルも応援した。

 

 フレッド・カプルスは昔から大好きな選手で、カプルスが優勝すれば、6の付く年に奇跡が起きるという新しいジンクスが続く……カプルス、頑張れ(パットがもう少し入ったら、ブッチぎったのになぁ)。

 

 みんな頑張れー、と言う中で、ミケルソンが最終的には抜け出した。ミケルソン、頑張れー、と応援した……

 

 混戦になるマスターズは面白い。最終日のバックナインで抜け出し、逃げ切る優勝もワクワクする。結局は、出ている全ての選手に頑張れー、と思っていたような博愛主義な応援になるのも、オーガスタナショナルの魔力なのかも知れない。

 

 

■優勝したミケルソン

 

 ドライバーを2本入れたチャンピオン。フェード用とドロー用の2本で勝負するという発想は、時々アマチュアでも耳にすることであるが…… トッププロの世界で、それもメジャーに勝ってしまう手段になるとは驚きである。

 

 元々、ウェッジを4本(PW、AW、SW、LW)入れているのでそれを1つ抜いてウェッジ3本にすれば、ドライバーを2本に出来る。

 

 とは言え、事前のインタビューで、ドライバー2本は距離がある事への対策なので、レギュラーのセッティングではしないと話しているので、影響をされやすい人は要注意である。

 

 

■総合的に

 

 パットは大事である。メジャーは、そのことを教えてくれる。

 

 以前、パットが外れまくったことでスコアが伸びなかったマスターズをそれで良いのか? と疑問を持ったことがあったが、今回については、パットが入らない場所にボールが行けば入らないし、入る所に狙い通り打てれば入るということが分かりやすかったので、疑問には思わなかった。

 

 ガラスのようなグリーンでも、上位の選手はパターを当てるようなパットはしない。しっかりと打ててこそ、パットは決まるのである。

 

 色々なことを教えてくれるからマスターズなのである。ショットについても面白い発見があったが、それはまた別の話。

(2006年4月11日)