【第1回】円が三角に恋をした(1) | マイナビブックス

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円が三角に恋をした

【第1回】円が三角に恋をした(1)

2015.10.06 | 桂南

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行きまーす。
透き通った声が風に乗って聞こえてくる。視線の先にはショートヘアが印象的な助走前の選手の姿。高々と上げた右手を下ろす。上半身を反らすようにして一歩下がり、浅い前傾姿勢で走り出す。バーの直前で歩幅を狭め、タイミングを合わせ左足に全体重をかけ力強く踏み切る。体がふわっと弧を描くように宙に舞う。腰がバーを越える。勢いよく両足を振り上げ背中から落ちていく。体がマットに沈み込む。くるりと後転し、すっくと立ち上がり、額にかかった髪をさらりと両手で払う。
その流れるような一連の動きを、三階の教室の窓から、こうして眺めているのが周一(しゅういち)は好きだった。
「綺麗なフォームの背面跳び。顔が小さくて、手足が長い。ああいう体型が走り高跳びには向いてるんだろうな」
跳び終えたばかりの選手の姿を目で追い、納得したように何度か頷きながらつぶやく。
「顔が小さいのは関係ないんじゃないか」
誰もいないはずの放課後の教室。背後から突然声をかけられ、はっとして振り向くと、同じクラスの菱形佑(ひしがたたすく)がギターケースを背負い笑みを浮かべ立っていた。長髪を右手でかき上げながら、からかい半分に聞いてくる。
「また見てるのかな」
不意をつかれた周一は照れ臭そうな顔をしたまま返事をしない。
「スタイルがよくて美形だからなぁ。かなり高いぞ」
「ん?」
「競争率」
「おい、競争率だなんて、彼女に失礼だろう」
「失礼か。お前らしい言い方だな。知ってると思うけど、あの娘は頭もいいし。英語の実力テスト、毎回トップだよ」

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