【第5回】 | マイナビブックス

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 浅草の公園六区に出て、透はまず、その人出の多さに圧倒された。
 初秋の昼下がり、清らかに澄み渡った青空のもと、数え切れないほどの人々が興行街を闊歩している。学帽をかぶった青年に日傘を傾ける婦人連中、思い思いに小屋を冷やかしてまわる男たち、よそゆきをまとった子供の群れ、見回りに歩く白手袋の巡査。遠くには唐人帽子のような十二階の姿が見え、道の両脇にはとりどりのノボリや看板が所狭しと押し並び、まさに色彩の洪水と化していた。
 透は大きく深呼吸をし、よしと覚悟を決めると、終わることを知らぬにぎわいのなかに、最初の一歩を踏み出した。だがものの数分で歩く場所さえなくなってしまう六区の混雑に、透は軽い目まいを覚え、またその人いきれにもうんざりして、しまいにはふっと嘆息をもらした。

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