結局、両親とも弟から何も聞いていなかったため、弟に直接メールにて事実を確認。
飼う。とのこと。
くだらない弟は、反犬派の私たちの抵抗を回避すべく、家族に何の相談もせず、ペットショップとの間に売買契約を成立させ、昨日は家族の前に姿を現さなかったのだろう(恐らく女のところ)。
2月20日19時現在、今だ彼は姿を見せない。母と私は緊張のためか言葉少なく、犬を連れた彼の帰宅を待つ。この先、犬の出現によって、我が家は安息の場ではなくなるのではないかという不安、仔犬のうちから手なずければ案外大丈夫で、怖くないのではないかという一抹の希望。
かくして20時。ダンボール箱を抱えて彼は帰ってきた。リビングに置かれるダンボール箱。
「ローン組んでなー、14万やってん」
弟の戯言は適当に聞き流し、蓋が開けられるのを冷や冷やしながら見守る。ごそごそ物音がする。飛び出してきたら恐ろしい。果たして、蓋は開けられた。できるだけ距離をとり、かろうじて箱の中が見える位置から覗き込む。茶色い柔らかそうな毛に覆われたミニチュアダックスフントの子がいた。初めてやってきた場所に不安なのか、箱の中で落ち着きなく動き回っている。可愛い。何でも子供は可愛い。但し、遠くから眺めている分には。箱から出てきたら何を仕掛けてくるかわからない。
「家の前まで店の人に車で連れてきてもらったんやけどなー、車に酔ったみたいで吐いてん」
犬も車酔いするのか。車酔いの辛さはわかる。途端に心配になってくる。
「じゃあもう早く休めるようにしたり」
母はやはり母親らしい発言をする。
「そうするわー。オリ組むの手伝って」
結局、母と私が、弟が子犬を抱いて突っ立っている間、ケージを組み立て、犬用のトイレと毛布を入れ、その中に犬は入れられた。
「そういえば名前は決めたん?」
「決めたで。ナタデコ丸」
「は? なんて?」
「ナタデコ丸。ナタデココと丸をくっつけてん」
オレのセンスを褒めてくれと言わんばかりのドヤ顔である。
「もうちょっとええ名前ないのん? この子日本の犬ちゃうやろ? こう……もうちょっと外人さんみたいな……」
母も納得いかないようである。
「いや、もうナタデコ丸やねん。なー」
犬に同意を求める。
こうしてミニチュアダックスフントのナタデコ丸は、ある意味要領のいい弟によって、さして反対派からの抵抗にもあわず、古池家に迎えられた。