【第10回】噛みあわない話
2017.01.27 |
10 噛みあわない話
〈越後・湯沢法律事務所〉というスキー場みたいな名前の大手法律事務所を、正義が訪れたのはこれが初めてではなかった。別件で征四郎といっしょに打ち合わせにきたことがある。
今日彼を呼び出したのは他ならぬ霧島弁護士だった。全面擦りガラスで仕切られた豪華なミーティングルームに現れた霧島は、中年の別の男性といっしょだった。
「すみません、不動さん、わざわざお呼び立てして」
霧島が恐縮していった。
「いいよ、こっちもこないだの返事を聞かせてもらおうと思っていたところだから。でも、まずはそっちの話を先に進めてよ。この仰々(ぎょうぎょう)しさは、プライベートの相談事じゃないんだよね?」
「はい、ですから今日は先輩の船橋にも同席してもらいました」
船橋と呼ばれたもう一人の弁護士が名刺を差し出してきた。